コンビニもない。居酒屋もない。商店は役場近くの雑貨店と日用品も売るJAの売店、それに民宿兼食堂が1軒だけ。高知市から車で1時間半。四国山脈の中央にある高知県大川村は、人口約400人の村だ。
村は、深刻な議員のなり手不足に悩み、議会を廃止し、代わりに有権者全員が物事を決める「町村総会」を始めるかどうか議論した。その村で、4月の村議選(定数6)に立候補しようという人が次々と出てきた。何が起きているのか。記者が村に通った。
山の向こうにまた山。水面がきらきらと光るダム湖沿いを走り、くねくねとした山道を上る。車のエンジン音以外は聞こえない。
村は高知市から車で約55キロ。標高約1千メートルの山に囲まれ、1960年代に人口は4千人を数えた。しかし、72年に産業の中心だった銅山が閉鎖された。75年にはダムができ、村役場をはじめ中心部はダムの底に沈んだ。そこから急激に人口が減った。いま、高齢化率は44%。全国平均の1・5倍だ。村や周辺自治体の役場や学校など公的な組織で働く人が半数で、残りは農家が多い。
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「村に来てから色んな経験をさせてもらった。恩返しがしたい」
5年前に村に移住してきた和田将之さん(28)は立候補を決意している1人だ。
群馬県出身。東京都内の大学を…