振り込め詐欺などで大金をだまし取れなくなったグループに、手口を凶悪化させる動きがある――。「振り込め」や「オレオレ」といった特殊詐欺の実態に詳しい暴力団元幹部が、朝日新聞の取材に証言した。事前に「アポイントメント電話(アポ電)」をかけ、その後に家へ押し入って金品を強奪する。そんな犯罪が今後、増えていくとの見立てだ。
息子や金融機関の職員などを装ってお年寄りらの自宅に電話をかけ、どのくらい現金を保管しているかや家族構成などを探る不審な電話が「アポ電」だ。特殊詐欺でよく使われ、警察当局は「犯行予兆電話」と呼んでいる。
東京都江東区のマンションで2月、80歳の住人女性が殺された事件でも、「お金いくらある?」という不審な電話が被害者宅にかかっていた。
特殊詐欺は「低調」
「このごろ、特殊詐欺に失敗することが増えている」と元幹部は言う。だまし取れるのは「100万円前後で、『成功率』も前より下がった」。取り締まり強化と防犯意識の向上が背景にあるとみている。
警察庁の統計もその言葉を裏付ける。特殊詐欺のうち、金融機関に金を振り込ませる手口の平均被害額は2013年に約238万円だったが、18年は約154万円に減った。キャッシュカードをだまし取る手口による平均被害額も18年は約118万円で、14年より約170万円少ない。
元幹部や東日本のある場所で特殊詐欺にかかわった暴力団組員によると、特殊詐欺グループは犯行にかなりの「経費」を投じるという。メンバーは10人前後で、マンションやビジネスホテルの一室に拠点を置く。集団で数カ月こもっても怪しまれない拠点探しは「アジト調達屋」に頼り、報酬はマンションだと家賃の2カ月分。現金を受け取りに行く「受け子」への報酬は、詐取額の1割前後を約束する。警察官の動きや受け子が現金を持ち逃げしないかを警戒する「見張り役」には数万円を払う。
そのため、特殊詐欺グループの中には「もっと少人数で、手間と経費を省いて一気に大金を」と考え、自宅に現金を置いていそうな一人暮らしのお年寄りらをアポ電後に襲う手口に変える兆しがあるという。
「万能な名簿」が流通
特殊詐欺と「アポ電」強盗に共通するのが、狙われるお年寄りらの「名簿」の存在だ。
相手をだます電話をかける「掛…