最高時速500キロで走るリニア中央新幹線が現実になる日本では、石炭を燃やして動くSLが現役で走っている。勤務地である山口市で見かけるSLやまぐち号は、今年、運行開始から40年を迎える。「こんな原始的なもの、乗り物じゃない」。かつてそう思っていた元国鉄マンは、今、後輩に貴重な技術を伝え続けている。民営化、出向、そしてSLへ。一人のベテラン運転士の「鉄道人生」を追った。
レトロでも中身は最新 怪しまれても再現、SLやまぐち
土曜日の午前11時13分、3番ホーム。発車時間になった。「出発進行」。運転室に立ち、機関助士を務める宅野孝則さん(59)が、機関士と声をそろえた。「ブォォォォ」と汽笛一声。人の背丈ほどある車輪がゆっくりと動き出し、JR新山口駅(山口市)と津和野駅(島根県津和野町)を結ぶ観光列車SLやまぐち号は駅を発車した。
SLは蒸気の力で動く。広さ約2畳の釜で熱を生み、蒸気を作る。釜の温度が下がると出力が下がるので、燃料の石炭を注ぎ続ける必要がある。足元のペダルを踏んで釜のふたを開いた瞬間、SLの後ろに連結されている炭水車から、石炭を投げ入れる。それが、「釜焚(た)き」と呼ばれる機関助士の主な仕事だ。
釜の温度は1千度を超え、ふたを開ける度に熱気に襲われる。夏は周囲の温度が60度近くなるといい、乗務を終えると機関士たちは汗で制服に塩が浮き、顔はススで汚れる。「機関士がドロドロになっている姿を見ていた。SLは到底できない」。やりたくない仕事だと、機関士になる前の宅野さんは思っていた。
宅野さんは山口県内の出身。高…