校舎からの転落、登下校中の自転車事故、部活動中の大けが……。学校事故のビッグデータを分析すると、同じような事故が毎年繰り返されていることがみえてくる。国が対策を示した後も、児童・生徒らが命を失い、重い障害を負う事故はなくせていない。
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全国の学校事故は2014~16年度の年間平均で107万件。小学校は休憩時間が5割弱、授業が3割弱。体育の授業の跳び箱事故は1万5千件(中学・高校も含むと2万件余)起きていた。中学と高校は運動部の活動中が半数を超え、うち命に関わることもある頭のけがは1万2千件以上あった。
食物アレルギーの事故は東京都調布市の小学校で12年に児童が亡くなって以来、死亡例はないが、この3年間に年間668件起きていた。2割の155件は、給食など食後の運動で発症し、重症化しやすい「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」だった。
特徴的なのは、対策後も情報が十分に共有されず、似た事故が繰り返されていることだ。東京都杉並区の小学校で起きた08年の転落事故などを受け、文部科学省は立て続けに防止策を通知した。だが16年度までの3年間に計198件起き、死亡事故も毎年あった。小中学校の授業でのプールの飛び込み事故も、学習指導要領で禁じられた後なのに3年間で計42件あった。
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学校事故のビッグデータ約300万件の分析結果をもとに、朝日新聞は実際に起きた事故を見つめ、事故を防ぐためにできることを専門家らとともに考えていく。
学校で1年間に起きる事故は、熱中症などの病気も含めて107万件。その大半がけがで、部活動、体育の授業、休憩時間、登下校など様々な場面で起きている。いつ、どんな事故が起きるのか、年代ごとに注意すべきことが見えてくる。
日本スポーツ振興センター(JSC)の14~16年度のビッグデータ322万件を産業技術総合研究所が分析。事故は年間平均で小学校と中学校で各37万件、高校26万件、幼稚園・保育所など6万件が起きている。校舎内(教室、廊下など)21万件に対し、主に運動を行う校舎外(運動場、体育館、校庭、プールなど)が68万件と3倍。また、学校外(通学路など)も16万件あった。学年が上がるにつれて増え、中学2年がピークとなる。部活動を引退する中学3年で減るが、高校1年で再び増える。
JSCの災害共済給付制度では、医療費総額5千円以上のけがや一部の病気に対し、4割分が支払われる。大半は給付額1万円未満の軽い事故。1万円以上の重い事故は1割強の13万件で、小、中、高と学校が上がるにつれて増える。
小学生では、授業の合間や放課後などの休憩時間が半数近くを占める。教室や廊下で鬼ごっこをしていてぶつかったり、うんていなどの遊具から落ちたり、遊んでいる時が多い。次に多いのが授業中で、その大半は体育が占める。跳び箱の着地の失敗や、マット運動で首をひねるなどだ。
中学、高校生になると、運動部の部活動が半数を超える。部員数が多いバスケットボールやサッカー、野球、バレーボールなどで事故が目立つ。重い事故は柔道やラグビーなどの体をぶつけ合うスポーツで多い。
年代によって傷めやすい部位も変わる。幼稚園児などは頭・顔が6割。小学生は腕・手が4割弱、中高生は股関節からつま先の足全体が4割と最も多い。
死亡事故については、産総研は16年度までの10年間に起きた1025件を別に分析。448件の登下校中が最多で、交通事故が大半だった。小学生は徒歩、中高生は自転車が目立った。
分析にあたった産総研の前首席研究員の西田佳史・東京工業大教授は「JSCデータは学校事故のほぼすべてを網羅する。このようなデータベースは海外にも例がなく、国をあげてもっと予防に活用するべきだ。対策が学校現場にきちんと届いているか、事故がどれくらい減ったかなどを評価できる実効性のある取り組みが必要だ」と話す。(北林晃治)
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〈学校事故ビッグデータ〉 小学校、中学校、高校、幼稚園・保育所などの管理下で起きたけがや病気に対する独立行政法人「日本スポーツ振興センター(JSC)」の災害共済給付制度のデータ。全国の児童・生徒らの約95%(17年度)が加入。国立研究開発法人「産業技術総合研究所(産総研)」が14~16年度の約322万件を分析。朝日新聞の取材に基づく視点を参考にした。
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どんな時にどんな事故が起きやすいのか、年代ごとに分かる特設ページです。