あれは、虫の知らせだったのか。
2014年2月4日。福岡県に住む原藤(はらとう)弘憲さん(57)はふと、長男の圭汰さん(当時18)に触れたくなった。大学受験から戻った息子は、うれしそうに「できた」と笑顔で話した。気をもんで待っていた父は相撲をしようと誘った。居間で親子の触れ合いが続いた。
翌5日、圭汰さんは越境入学していた大分県中津市の県立中津南高校の掃除中に、校舎4階の窓から転落して亡くなった。
2カ月半後、弘憲さんは県教育委員会から調査報告書を受け取った。事故当日は年7、8回の大掃除で、ワックスがけや窓拭きなどを行っていた。朝礼で担任は、最後の清掃なので心を込めるようにと、生徒に伝えていた。
大掃除に取りかかった圭汰さんは、分担された1階のトイレを掃除。3年生の教室がある4階に戻ると、級友が廊下の窓から庇(ひさし)に出て窓の外側を拭いていた。庇の幅は1・1メートル。手すりや柵はない。手伝おうとした圭汰さんは、庇に下りる際に転落。約9メートル下の2階テラスで全身を打った。
進学校の同校は、もとは弘憲さんのあこがれだった。その夢を圭汰さんが実現したとき、2人で泣いた。絵が得意で、役場で働きながら漫画家を目指すと話していた。その息子は、自宅に届いた大学の合格通知を受け取れなかった。
子どもたち、守れますか 学校の死角
どんな時にどんな事故が起きやすいのか、年代ごとに分かる特設ページで考えます。
事故後の示談交渉で、県教委側…