今月上旬の大型連休中、静岡県中部の60代男性が自動車運転死傷処罰法違反(無免許過失運転致傷)の疑いで現行犯逮捕された。男性は2月に免許を自主返納したが、その後も数回、日用品を買うために車を使っていた。急勾配の自宅から80代の母と買い物に行くには、車のある生活の方が便利だったという。(増山祐史)
「迷惑かけられない」自主返納
男性の自宅は、小学校や公園が近い閑静な住宅街の一角にある。県道から急勾配の坂を上った場所にあるせいか、近所はどこの家にも自家用車が1台から2台はあるという。
運転免許を取得したのは約40年前。東京で勤めていた紳士服の会社を辞め、地元に帰ってきた時だった。「若いうちに取っておいた方がいい」と周囲から促され、20代後半で乗用車を買った。通勤にはバスや自転車を使い、休日に買い物に出る時だけ車に乗った。
5年ほど前から、運転中に急に意識を失うようになった。てんかんによる発作だった。「事故だけは絶対に起こしちゃいけない」。そう自分に言い聞かせ、薬を服用し、運転の頻度を減らした。だが、細心の注意を払って運転をしても発作は起きた。今年1月には縁石に乗り上げる事故を起こし、「これ以上人に迷惑をかけられない」と2月に免許を自主返納した。
だが、男性はその後も数回、買い物などで車を使った。スーパーは歩いて約10分の場所にあるが、急な坂を上り下りしなければならない。天気が良ければいいが、雨の日はたくさん買うのが難しい。町中に出るバスは通勤通学の時間を除けば、1時間に1本程度。免許返納後に修理から戻ってきた車はそのまま自宅にあり、「『ほんの少しの移動のため』と魔が差した」。
連休中の5月上旬、母と食事を済ませ、「ほんの少し」のつもりでスーパーに買い物に行く途中、意識を失った。気がつくと、信号待ちで停車中の乗用車に追突していた。
「いつかやめなきゃいけないのは分かっていた。天罰以上のものが下ったんです」。取材に対し、男性は板張りの床に正座し、時折目に涙を浮かべて話した。男性は逮捕された後に釈放されたが、生活のために続けているアルバイトと被害者への弁済準備などで1日が終わる。捜査のため警察に預けた車は、返却されたらすぐにでも処分するつもりだという。
男性は現在、80代の母と2人…