電力・ガスの小売り自由化で「顧客争奪戦」が激化している。競争の渦中にある東邦ガス(名古屋市)はどう捉えているか。同社の冨成義郎社長に聞いた。
――電力自由化から3年、ガス自由化から2年。新規参入した電力では契約を約19万7千件獲得した一方、家庭向けガスに参入した中部電力が約23万9千件獲得。顧客の奪い合いです。
「(競争が)もっと緩やかに進むと思っていましたが、当初の想定よりもペースが速いです。ガスで中部電力に奪われたことは、厳しく受け止めていますが、当社が参入した電力では予想以上に契約を獲得でき、厳しさと手応えの両方を感じています。中部電力はCMなどを通じて、PRにかなり力を入れているし、当社もCMを始めたことで、電力・ガスの自由化の認知度が大きく高まりました」
――価格以外の価値をどう広めていきますか。
「(家庭向けガスでは)主に低価格によって(中部電に)顧客を奪われたと思います。ただ、東邦ガスは、家庭のガス機器が故障すればプロの担当者がすぐに駆けつけて修理する他社にないサービスを手がけ、それが料金に含まれています。トータルのコストパフォーマンスは他社に負けてはいません。目に見える価格だけで評価する顧客も多いのですが、価格以外のサービスを地道に説明しながらやっていきたいと思っています。顧客メリットを高める観点からも、価格とサービスを含めた総合力が非常に重要です」
「本業は都市ガスですが、LPガス事業と電気事業を合わせてエネルギー供給の幅を広げ、新たなサービスを提供しています。自由化時代においてはガスも電力もLPガスも争奪戦。この三つの市場でトータルの勝率をいかに上げるかが重要で、3市場の合計では当社は勝ち越しています」
――電力の契約獲得目標を21年度末までに「30万件」と打ち出しましたが、控えめでは。
「これまでは、切り替わりやすい顧客から切り替わってきましたが、このペースは続きません。むしろ競争は、この先もっと厳しくなるでしょう」
「昨年3月からは元中日ドラゴンズ投手の山本昌さんをCMに起用した。ポイントキャンペーンに加え、ガスのプロに任せて安心という長期的PRも展開しています」
――社長就任から3年がたちます。見えてきた課題は。
「電力・ガス自由化の時代に突入し、顧客の動きが速いとわかり、厳しい競争も認識しています。ただ、自由化だけではなく、デジタル技術の急速な進歩のほか、低炭素化への社会的要請の高まりなど、世の中は大きく変わりつつあります。目の前の競争に限らず、こうした社会全体の環境変化に感度を研ぎ澄まし、すばやく対応していく部分では、当社はまだ不足しています。感度を高め、視野の幅を広げることが非常に重要になります」(千葉卓朗)
◇
とみなり・よしろう 岐阜県関市(旧武芸川町)出身、京都大大学院修了。1981年、東邦ガス入社。旧港明工場(名古屋市港区)で、石炭から都市ガスを製造する装置の建設工事にオペレーターとして従事。2016年6月から現職。休日は、妻と自宅周辺をウォーキングする。
◇
〈東邦ガス〉 名古屋市熱田区。1906年設立の名古屋ガスが前身。22年に関西電気と合併、ガス部門が独立して設立された。愛知、岐阜、三重を中心に都市ガスを供給し、契約件数は248万件。19年3月期(連結)は売上高4611億円、経常利益214億円。