「特殊で何が悪い?」。岡田准一さんをCMに起用する日本特殊陶業(名古屋市)は、エンジン部品の大手メーカーです。業績は絶好調ですが、電気自動車が主流になれば仕事の大部分がなくなりかねません。新たなメシの種を育てようと、新社長は会社の風土改革に挑戦中。電池の技術を使って月面探査事業にも参画します。
――社長交代を発表した2月の会見では「社内に改革の風を吹かせる」と強調しました。
「電動化が進み、主力の内燃機関(エンジン)の仕事が縮んでいくのは間違いありません。それが5年後か10年後か20年後かはわからないが、やるべきことは強みである内燃機関をできる限り強くしつつ、稼いだお金で新しい仕事を育てること。まいたタネの間引きもしながら、軸足をいつ移すか、最終的に決めるのが私の役割です」
他社との協業検討
――5年や10年とは、ずいぶん厳しい見方ですね。
「電動化のスピードを決めるのは政治です。私たちの手の届かないところで物事が決まるなら、量が減っても柔軟に対応できるよう生産体制を見直していく。強くなるための投資はして、高付加価値品はシェアを伸ばしたい。一方、普及品はうちでなくてもつくれる。将来的には供給過多になる恐れもあり、他社との協業も検討したい」
社員が夢を持つ
――2021年に月面着陸をめざす探査プロジェクト「HAKUTO(ハクト)―R」にも参画します。
「先方からオファーがありました。極寒の月面でも、ある程度容量があって動く電池ということで、うちが研究していた酸化物系の全固体電池に声がかかった。電解質が液体でなく、大容量・高速充電が可能な電池です。経営会議でも『夢があって楽しそう』と、全員賛成で参画が決まりました」
――実験が成功すれば世界初です。
「社員が夢を持ち、色々なことに取り組んでほしいというのが、元々のねらいです。効果はものすごく感じています。新入社員に『会社でどんな夢を描きますか』という課題を出すと、みんなロケットで宇宙に飛んでいく絵を描くんですよ。これに限らず、新規事業を加速したいと思っています」
――協業では、社外の知恵や技術を集める「オープンイノベーション」に力を入れる考えです。
「うちの『何を変えたいですか』と聞かれたら、答えはこれです。プラグは、垂直統合の最たるもの。自分たちで全部をつくって収益を出してきた。でも世の中は必要なものを素早く提供し、改善する流れです。意識を変えて挑戦しないと、いまいるステージが沈んで消えるかも知れない。今期中に、少し長い未来を見据えた経営計画をつくります。肉付けには若い社員も巻き込み、未来を担う人材を育てたい」
――ルーツが同じ森村グループ4社で燃料電池にも挑戦します。
「集まることで製品化を急ぎ、世の中に貢献できたらというのが動機です。事業プランは練っているところですが、分散電源は災害対策でも注目されています。コスト面でも勝負できるものが見込めると思っています」(山本知弘)
◇
〈日本特殊陶業〉本社・名古屋市瑞穂区。エンジンに欠かせない部品「スパークプラグ」の最大手。セラミック企業集団・森村グループの1社で、1936年に日本ガイシから分離した。各種センサーや半導体関連製品もつくる。2019年3月期の売上高は4250億円、純利益は428億円。
◇
かわい・たけし 大阪府出身。京都工芸繊維大院修了。1987年日本特殊陶業に入り、排ガス中の酸素濃度を測るセンサー開発に長く関わった。取締役を経て4月から現職。趣味はテレビでスポーツ観戦しながら、推理小説や経済書を読むこと。56歳。愛犬は8歳のメスのしば犬。