それぞれの最終楽章・訪問看護師とともに(5)
楽患ナース訪問看護ステーション所長 岩本ゆりさん
これまで「最期のとき」「最期にそばにいる人」を自分で選んで旅立った方々を紹介してきました。最終回は、私の看護師としての原点にもなった、約20年前の女性患者Tさんのケースをもとに、「幸せな看取(みと)り」について考えたいと思います。
それぞれの最終楽章
Tさんは、大学病院の婦人科で働いていたときの20代後半の患者でした。子宮がんが再発し、終末期でした。20年前のことですから、まだまだ抗がん剤の副作用がきつく、嘔吐(おうと)ばかりしていました。私は病棟看護師だったのに、一緒に食事に出かけたり、買い物をしたりしました。
Tさんとは、「天使の時間」について話し合ったことがあります。亡くなる直前に、少し元気になるときのことを、そう呼びます。彼女は「自分が死ぬときは、『死ぬ』って知ってから死にたい」と言いました。それに対し、私は「死ぬ人は、最後に周囲の人にお礼を言うから、きっと死ぬときがわかるんじゃないかな。『天使の時間』って呼ぶのよ」と応じました。
そんな話をして3年ほど経ったある日、彼女がとても気分よく起きて、私を待っていました。ひとしきり話をしたあと、彼女が私に向かってこう言ったのです。「ゆりちゃん、今が私の天使の時間なの?」。私は何も言えずに泣きじゃくり、ふとんに突っ伏してしまいました。そんな私の頭を、Tさんはゆっくりとなでてくれました。
彼女は、ご主人の待つ家に帰り…