去年、埼玉県の首都高速道路で、体調不良だった運転手の大型トラックが渋滞の列に突っ込み、3人が死亡し、3人がけがをした事故で、過失運転致死傷の罪に問われている運転手は、20日の初公判で起訴された内容を認めました。
運転手をしていた降籏紗京被告(29)は去年5月、発熱などの症状があったのに大型トラックを運転し、埼玉県戸田市の首都高速道路で渋滞の列に突っ込み、3人を死亡させたほか、3人にけがをさせたとして、過失運転致死傷の罪に問われています。
20日東京地方裁判所で開かれた初公判で、被告は裁判長から起訴された内容に間違いがないか尋ねられると「ありません」と答え、認めました。
検察は冒頭陳述で「38度の発熱があったが、運送会社に借金があり迷惑をかけたくないという理由で運転した。ふらつきながら運転し、音が出る車線を20回以上踏んでいた。ハンドル操作をしながらLINEを送ることもあった。時速75キロから80キロで衝突した」と述べました。
事故をめぐっては、勤務先だった運送会社の元社長も代わりの運転手を手配するなどの必要な措置を怠ったとして、業務上過失致死傷の疑いで書類送検されています。
遺族は、運転手により刑が重い危険運転致死傷罪を適用すべきだとして検察に要望書を提出し、今回の裁判に被害者として参加しています。
【法廷では大型トラックが渋滞に突っ込む様子を映した映像流される】 法廷では、大型トラックが渋滞の列に突っ込む様子を映したおよそ30秒間のドライブレコーダーの映像が流されました。
映像は、大型トラックから前方を撮影したもので、減速することなく車の列に突っ込んだあと、激しい音とともに前の車を押し込み、フロントガラスが割れて停止するまでの様子が映っていました。
高速道路に設置されたカメラの映像も流され、大型トラックが突っ込んだ後、炎と黒い煙が上がっていました。
裁判に参加していた遺族の中にはすすり泣いたり、ハンカチで涙を拭ったりする人もいました。
【検察が事故の経緯について語った冒頭陳述の詳細】 事故の経緯について検察が語った冒頭陳述の詳細です。
【事故3日前から発熱】 運転手の体調について検察は、「3日前に38度の発熱があり、かぜ薬を購入して服用したが、熱は下がらなかった。前日の夜は不倫相手の女性とLINEのやりとりを長時間続けていて、十分な睡眠を取らなかった」と述べました。
【会社に借金あり休み取らず】 事故当日も38度の発熱が続き、頭がくらくらする状態だったといいます。 それでも休みをとらなかった理由について検察は「運送会社に借金があり迷惑をかけたくないと思い、事故を起こすことはないと安易に考えた」としました。
【ふらつきながら20回以上車線を踏む】 運転の状況について「ふらつきながら運転し、音が出る車線を20回以上踏んで、正常な運転ができないことを認識していた。時速75キロから80キロで衝突し、直前までブレーキをかけることはなかった」と述べました。
【ハンドル操作しながらLINE】 また、「右手でハンドル操作をしながら左手で女性にLINEの送信をすることもあった。衝突後は救助活動に参加しなかった」としました。
【事故で亡くなった船本宏史さん(54)と杉平裕紀さん(42)の遺族が会見】 初公判のあと、事故で亡くなった3人のうち船本宏史さん(54)と杉平裕紀さん(42)の遺族が弁護士とともに会見を開きました。
弁護士などによりますと、遺族側は「危険運転致死傷」の罪を適用するよう要望していましたが検察庁は要件を満たさず立証は困難だとして、断念したということです。
夫の宏史さんを亡くした船本恵津子さんは、「けさ主人のお骨に触れながら、ようやく公判が始まり、絶対にあなたの敵をとると誓って家を出てきました。裁判では、主人が亡くなる瞬間のドライブレコーダーが流されましたが、被告はまったく表情を変えず、傍聴人と同じように見ているような表情をしていました。事件記録を閲覧しましたが、『当日仕事を休めなかった』のではなく、実際は『休まなかった』です。被告は高速道路上で不倫相手とLINEをしながら“ながら運転”をしています。被告は左手でスマホを操作し、右手でハンドルを持つから大丈夫と言っていますが、高速道路上での危険極まりない“ながら運転”のどこが大丈夫なのでしょうか」と訴えました。
夫の裕紀さんを亡くした杉平智里さんは、「仕事を『休めなかった』というのと『休まなかった』というのは、全然違う。前日の夜は自分の欲を優先してLINEを送り続けていた。過失運転は最高刑が7年で、危険運転は最高刑が20年、あまりにも差がありすぎます。同じように泣き寝入りをして諦めざるをえないという遺族が増えていくのではないかと思います。危険運転致死傷罪への訴因変更ができなかったことはすごく残念ですが、いまの法律でできるかぎりの重罰を求めたい」と話しました。
また、裕紀さんの大学1年生の息子は、「自分の父がこんな人に殺されてしまったんだと思うと悔しい。7年じゃ全然足りず、自分としてはもっと重い刑にしてほしいけど、今の法律ではしかたないと思う」と話していました。 |