サッカーのワールドカップ(W杯)ドイツ大会は9日(日本時間10日)、イタリアの24年ぶり4度目の優勝で幕を閉じた。ベスト4は欧州勢のみで、守り優先チームの強さが目立った大会。1次リーグ敗退と不本意な結果に終わった日本だが、戦いぶりからは希望ものぞく。次回、4年後の南アフリカはどんな大会になるのか。【ベルリン斎藤義彦、小坂大】
◇「攻撃のブラジル」失速
64試合で147ゴール。サッカーの最大の見せ場である得点シーンは今大会、1ゲーム平均2.30だった。今回で18回を数えるW杯の歴史で、「最も退屈な大会」と呼ばれる90年イタリア大会の2.21に次ぐ低い数字だ。ハットトリック(1選手が1試合3得点を挙げること)が生まれなかったのも史上初めてだ。
得点減少の背景にあるのが、組織的な守備戦術の高度化だ。4強のうちイタリア、フランス、ポルトガルはFWを1人だけにし、その分、ボールの奪い合いの場となる中盤のMFと、ゴール前の最後の防壁のDFに人を割いた。
02年日韓大会は連覇がかかったフランスが1次リーグで姿を消すなど、強豪が相次いで敗れた。それだけに、欧州勢は地元開催の今大会で結果を残すことを最優先に守備の強化を図った。それが、24年ぶりの欧州勢による4強独占につながった、との見方が強い。
実際、優勝したイタリアは7試合2失点。1点がオウンゴールで、もう1点がPKだ。準優勝のフランスも7試合3失点。ベスト16入りしたスイスは4試合無失点。それでもPK戦敗退という史上初の珍記録を作ったほどだ。
一方で、攻撃的チームの代表格で優勝候補の筆頭だったブラジルは、8強どまりだった。攻撃の要のロナウジーニョが代表に合流できたのは開幕の約3週間前。所属するバルセロナ(スペイン)の主力として5月17日に欧州チャンピオンズリーグ決勝を戦った直後で、チームとして戦うための準備期間が足りなかった。万全な状態でなければ、ブラジルといえども欧州伝統の堅い守りを崩すのが難しいことを図らずも実証した形だ。
今大会は、警告総数307、退場者数28人でいずれも過去最多を数えた。がっちり固められた守りをこじ開けようとして無理やり突っ込んだり、反則をしてしまう光景が目立った。これもまた、守り優先の大会を証明する数字でもある。
◇「日本スタイル」確立を
日本は、前回大会の反省から今大会では、対照的なスタイルのサッカーを目指した。結果は、1次リーグ2敗1分けで2大会連続の決勝トーナメント進出はならなかった。しかし、今後にいい教訓をもたらした大会と言えそうだ。
日本は前回の02年日韓大会では、フランス人監督のトルシエ氏から欧州的な組織戦術の指導を受けてきた。結果的に決勝トーナメントに進出したが、ベスト16の壁を越えることはできなかった。
その反省を踏まえて、個人の技術を高めようと招いたのがブラジルのジーコ監督だった。個人技を生かしてボールをつなぐ華麗なサッカーを目指した。しかし、今大会で、ブラジルは準々決勝でフランスの組織的な守りに完敗した。
そのフランスは今大会で準優勝を飾った。個人技のレベルが決して高くない日本にとっては、ブラジルスタイルで勝ち抜くことの難しさと、組織力の持つ強みを改めて実感させられる機会となった。
今大会は、相手守備陣の厳しい圧力を受けるFWの得点が減少し、サポート役のMF陣の得点が増えたのが特徴だ。決定力不足という問題を抱える日本にとって、中盤勝負の傾向が強まれば、このポジションの人材は豊富なだけに、世界と戦う余地が出てくる。「日本スタイル」の確立が求められる。
◇問題は山積…2010年の南アフリカ大会
次回2010年の大会は南アフリカで開かれる。史上初のアフリカ大陸での開催。今大会期間中にあった開催記念イベントで、南アフリカのムベキ大統領は「W杯は、アフリカ全体が数世紀にわたる苦難の歴史から再生する大きな力となる」と演説、期待の大きさがうかがえる。
しかし、9都市10会場での開催は決まっているがダーバンなど4会場は競技場の建設も始まっていないのが現状。ケープタウン市長から「貧しい人は家もないのに、巨大な施設は造れない」との声も上がるほどだ。
最も問題なのは治安だ。南アの人口は約4500万人だが、昨年1万8000人が殺害されている。経済成長とともにエリート層と貧困層の格差が開いたことが一因とされる。深刻さを増すエイズ対策も急務だ。ムベキ大統領は「問題はない」と強気だが、準備が整わなければ、急きょ米国に会場を変更するのではとの憶測もある。
アフリカ開催には国際サッカー連盟(FIFA)の強い意向がある。FIFA理事で日本サッカー協会の小倉純二副会長は「02年は日韓共催、今回は統一ドイツによる大会とテーマがあった。南アフリカには、アフリカを象徴する多くの問題がある。FIFAにとっても挑戦だ」と話す。
毎日新聞 2006年7月11日