根室市のカニかご漁船「第31吉進(きっしん)丸」の川村昭允さん(29)と紙屋春樹さん(25)が30日夕、解放され、2週間ぶりに家族と再会した。しかし、会見では終始、目を伏せ、事件から受けた衝撃の大きさをうかがわせた。
2人を乗せた道の「北王丸」は午後6時半、根室市花咲港に接岸。出迎えた家族らに囲まれ、無事に戻れたことを喜び合った。紙屋さんの姉、吉野真奈美さん(28)は「本当に心配でした。テレビでなく、一刻でも早く直接顔を見たかった。思ったより早く帰って来れるようになれて本当によかった。『大変だったね』と声をかけてあげたい」と話した。
2人は30分後、花咲流通管理センターで会見。事件発生時の状況について、紙屋さんは「ロシアのゴムボートは、船の左後ろぐらいから来た」と説明。川村さんは、死亡した盛田光広さん(35)が銃撃されたことについて、「自分たちも撃たれると思い、船内で伏せていた」と振り返った。しかし、銃撃時の詳しい状況、ロシア側が主張する密漁・領海侵犯の真偽などについては「分からない」と明言を避けた。2人は健康状態に問題はないが、疲労の色は隠せず、会見は15分間で終わった。
一方、札幌市内で同日開かれた「北方領土返還要求北海道・東北国民大会」(大会長・高橋はるみ知事)では、依然、拘束されている坂下登船長(59)の早期解放、ロシアに対する厳重な抗議や安全操業の確保などを求める特別決議が採択された。大会には約500人が参加。冒頭、盛田さんの冥福を祈り、全員で黙とうをささげた。高橋知事は「尊い人命が失われたことは決して許されない。この事件を二度と起こしてはならず、(事件の)前提となった北方領土問題を早期解決しなければならない」と訴えた。【本間浩昭、山田泰雄、田中泰義】
毎日新聞 2006年8月31日