【ユジノサハリンスク杉尾直哉】「早く根室に帰りたい」。国後島・古釜布の収容先で「第31吉進丸」の坂下登船長は28日、毎日新聞のラズモフスカヤ助手に対し静かに訴えた。他の乗組員の紙屋春樹さん、川村昭充さんは終始無言。事件発生(16日未明)から2週間近くになり3人からは望郷の思いがにじんだ。
ラズモフスカヤ助手は日本語で同船長らと話した。坂下船長は「早く日本に戻って、亡くなった船員の家族のために、すべての問題を解決したい」と述べた。今後も船長を続けるかと聞くと、「分からない。家族に相談する」と答えた。
船長らの話によると、3人は「散歩がしたい」と訴え、国境警備隊員と弁護士を交えた交渉で、許可が出ることになった。坂下船長は足の痛みを訴えたが、外の空気が吸いたいようだったという。ただし、警備隊側は、街中ではなく、山間部などに連れて行って散歩させることを計画しているという。
同助手によると、坂下船長らは差し入れとして「ミネラルウオーター、ピスタチオ、ポテトチップス、トイレットペーパー、ジュース、カップめん」を要望した。会見に立ち合った弁護士は、3人から洗濯物を引き取り、「明日持ってくる」と話していたという。
一方、ラズモフスカヤ助手はこの日、古釜布港で押収されている「第31吉進丸」を見た。司令塔(操舵室)の2カ所に銃弾の跡があったという。
毎日新聞 2006年8月29日