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米同時テロ:「中東民主化構想」は瓦解の危機に

作者:西尾英之…  来源:mainichi-msn   更新:2006-9-12 8:27:28  点击:  切换到繁體中文

 米同時多発テロから5年の11日、ブッシュ米大統領は「テロとの戦い」の決意を新たにした。しかし、米国が対テロ戦争で撲滅を目指すイスラム武装勢力はアジアと中東の十字路でしぶとく生き残り、米国の軍事行動は住民の反発と過激思想の拡散を招いている。5年前、米の報復攻撃を受けたアフガニスタンのイスラム原理主義勢力タリバンは、パキスタンのアフガン国境地域で新たな支配巻を確立しつつある。イラク戦争をきっかけに中東では宗派間対立とテロが激化、ブッシュ政権が掲げる「中東民主化構想」は瓦解の危機に直面している。

 「ワジリスタンはタリバンの支配下にある。『ジルガ』(部族の長老会議による自治の仕組み)は禁じられ、イスラム法による裁判も始まった」。険しい岩山が連なるパキスタン北西部・部族地域の南ワジリスタン管区から数日前、イスラマバードに戻ったパキスタン人の男性(30)が毎日新聞の取材に、こう語った。首都の外国企業で働くこの男性は、同管区でタリバンにひげが薄いことを見とがめられ、「ひげを伸ばしターバンを巻け」と脅された。

 ◇パキスタンのアフガン国境にタリバン支配区

 ワジリスタン地方には01年のアフガン戦争後、同国側からタリバンや国際テロ組織アルカイダとつながりのある中央アジア出身者が逃げ込んだ。米国やカルザイ・アフガン政権は同地方がイスラム武装勢力の拠点になっていると指摘し、パキスタンに取り締まりを要請した。ムシャラフ大統領は04年、軍や警察の立ち入りが認められなかった同地方に初めて兵力を進め、アフガン側に展開する米軍が掃討作戦に協力した。

 しかし、ワジリスタン地方の住民はタリバンと同じパシュトゥン人で、イスラム原理主義志向が強く、命がけで「客人」を守る伝統がある。地元部族の保護下にあった武装勢力への攻撃では住民が巻き添えとなり、女性や子供を含む約800人が死亡したとされる。住民は復しゅうのために武装勢力に加わり、パキスタン軍に攻撃を始めた。2年半の戦闘で約700人の兵士を失ったパキスタン軍は今月5日、北ワジリスタン管区で地元部族と「和平協定」を締結、事実上、作戦中止に追い込まれた。

 アフガンから逃げ込んだグループを中心とする新生タリバンは混乱に乗じて勢力を増し、地元部族に任されていた地域の支配権を乗っ取った。地元住民は「犯罪集団の鎮圧などタリバンは住民の苦情に耳を傾け、すぐに対応を取る。住民の多数はタリバン支配を支持している」と話す。

 「ワジリスタンで起きたことはアフガン全体の将来を暗示する。武力攻撃が住民の反発を呼び、『タリバン化』を後押しした。米国が同じ過ちを繰り返したくなかったら武器を置いてタリバンとの対話を始めるしかない」。パキスタンのアフガン政策に深くかかわり、タリバン政権との関係が深かったとされるハミド・グル元パキスタン軍情報機関(ISI)長官は、そう指摘した。【イスラマバード西尾英之】

 ◇押し付け民主化、反米感情に拍車

 同時テロ後、ブッシュ米政権が提唱した中東民主化構想は行き詰まっている。米国は民主化の進展が穏健で親米的なアラブ世論を形成し、テロ抑制につながると考えた。だが、中東の独裁政権によるテロ摘発強化は民主化に逆行し、民衆の反米感情に拍車をかけているからだ。

 中東では昨年から今年にかけ、レバノンやイラク、パレスチナでおおむね公正な選挙が実施された。だが、イラクは宗派抗争の激化で内戦の瀬戸際にある。レバノンではイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラが躍進。パレスチナではイスラム原理主義組織ハマスが勝利するなど、米国に敵対的な宗教組織が勢力を拡大した。米国は自国に都合の悪い民主選挙結果には背を向けてハマスへの支援を停止し、イスラエルのレバノン攻撃を黙認、アラブ世論の離反を招いた。

 「テロとの戦い」で最も恩恵を受けたのがイランだ。アフガンのタリバン政権、イラクのフセイン政権という宿敵を米国が相次いで崩壊に追い込んだからだ。イランを「悪の枢軸」と敵視する米国により、イランは「自らの血を一滴も流さず国家安全保障上の難問を解決した」(改革派ジャーナリスト)格好だ。

 イランはレバノン紛争で米国やイスラエルを揺さぶる「ヒズボラ」という切り札を得た。アフマディネジャド・イラン大統領の相次ぐ反米・反イスラエル発言も中東・イスラム世界で高まる反米感情に共振している。

 エジプトの民間研究所「イブン・ハルドゥーン・センター」が同国民1700人を対象に先月実施した世論調査によると、中東指導者の支持率トップはヒズボラのナスララ師。アフマディネジャド大統領、ハマスのメシャール幹部、アルカイダのビンラディン容疑者と米国に敵対する人物が続き、アラブ世論の反米化を浮き彫りにした。【カイロ高橋宗男、テヘラン春日孝之】

毎日新聞 2006年9月12日


 

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