新潟県中越地震の被災地・小千谷市で9、10両日、世界一の四尺玉花火が上がる「片貝まつり」が開かれる。1万5000発すべて市民や地元企業が金を出し合って思いを託す奉納花火。震災を乗り越えての開催に新たな希望が芽生えている。
実行委とまつりを共催する片貝町煙火(えんか)協会の机は数字の記された書類で埋め尽くされている。打ち上げ時間を決める「番付会議」。奉納者が希望する時間を調整する作業で、番付表はプログラム代わりに来場者らに配られる。
例年との違いは、奉納花火申込書のメッセージ欄に並ぶ「震災復興」の文字。市内の印刷業、位下(いげ)寿生さん(35)は「今年もどうにかここまで来た」と笑みを浮かべた。
父の代から花火の番付やポスターの印刷を引き受けてきた。会社を継いだ12年前から番付会議には必ず出席している。
昨年10月23日の中越地震で工場の壁は崩れ、巨大な印刷機が1メートルも横にずれた。受けていた注文は外注に回し急場をしのいだ。再建にめどが立った今年初め、協会から「今年もやるよ」と連絡が入った。申込書の厚みに位下さんは驚いた。「片貝ガンバレー、小千谷ガンバレー」「地震に負けるな」。大きな被害を受けたはずの常連たちも名を連ねていた。「みんな、いつまでもめげてはいないんだ」。喜びがこみ上げた。
全壊の自宅を離れ、アパートで家族3人暮らし。刷り上がった番付には「復興祈願 位下印刷」と記されていた。【渡辺暢】