今年5月、米国の搭乗拒否者名簿に記録されている男の乗った韓国発米国行き旅客機が、米国政府の要請で急きょ成田空港に着陸させられ、FBI(米連邦捜査局)が男を事情聴取する騒ぎがあった。男はその後、米国で国際テロ組織アルカイダ関連の容疑者として逮捕されたが、成田着陸時や手荷物の再検査の間、日本の航空当局などに男に関する詳しい情報は伝えられなかった。このため、爆発物の所持に備えた滑走路閉鎖などの措置が取られなかった。国際的に航空機のテロ対策が強化される中、情報共有のあり方に課題を残したと言えそうだ。【西脇真一、神澤龍二】
犯罪に関与した疑いがあるなどとして米国が作成している搭乗拒否者名簿(ノー・フライ・リスト)に載っていたのは、パキスタン系米国人の男(23)。旅券の記録などによると、03年4月、米国から英国経由でパキスタンへ出国。今年5月27日にタイへ行き、同29日に大韓航空機でソウルを経由しサンフランシスコへ向かう予定だった。
日本側への連絡は5月30日未明。国土交通省東京航空交通管制部に、米国の管制センターから「目的地を成田に変更する」と通報があった。「名簿の人物が搭乗しており米国に行けない。韓国へ戻るのに燃料補給が必要だ」との理由で、午前6時過ぎ成田に着陸した。
空港では、在日米国大使館のFBI捜査官が千葉県警の協力を得て男を任意で聴取。しかし、テロ組織との関係は確認できず、米国側は男の渡米を認めた。
この間、大韓航空は成田空港で機体や荷物を再検査した。しかし、着陸前から航空当局に男の詳しい情報は伝えられず、爆発物に備えた滑走路閉鎖や消防車の待機もなく、天候不良での行き先変更と同じ扱いだった。
男は米国に入国したが、FBIは6月8日、「アルカイダとの関係を隠した偽証容疑で逮捕」と発表。男は「03~04年にパキスタンでアルカイダの訓練キャンプに参加した」「ジハード(聖戦)の任務遂行のため米国行きを希望した」と供述したという。
逮捕の報に驚いたのが、日本の航空当局。国交省幹部は「とてもびっくりした。米国からの連絡の詳細は言えないが、アルカイダ関係の情報はなかった」と明かす。千葉県警も「事前にそのような話はなかった」と言う。
国立情報学研究所の北岡元教授は「何が起きていたか分からず、もし容疑まで伝わっていれば空港での対応も違ったのではないか。ただ、米国から日本の一部部署には正確な情報が入っていた可能性があり、もしそうなら日本国内での情報共有の強化が必要だ」と指摘している。