子供に創造と発見の面白さを教え、世界的なクリエーターや科学者の卵を育てようと、日本ヒューレット・パッカードの社内ボランティア組織「HPスクイーカーズ」などがこのほど、「HP スーパーサイエンス キッズ実行委員会」を設立。3日、東京都内でカンファレンスが開かれ、同委員会の名誉委員長に就任した「パソコンの父」アラン・ケイさんが基調講演を行った。【岡礼子】
◇子供が夢中になれる学習を アラン・ケイさん
同委員会は、米国のNPO「ビューポインツ・リサーチ・インスティチュート」(アラン・ケイ代表)と子供の創作活動を支援するNPO「CANVAS」(川原正人理事長)、「HPスクイーカーズ」が共同で設立。小中学生を対象にソフトウェア「スクイーク」を使った作品コンテストとワークショップを約1年半にわたって開催する。
「パソコンの父」と言われるアラン・ケイさんは01年、子供の教育のためのNPO「ビューポインツ・リサーチ・インスティチュート」を設立、簡単な命令文を並べてコンピューター・プログラムを作成するソフトウェア「スクイーク」を開発、同ソフトでの授業実践をしている。お絵かきソフトのように、絵を描いたり、その絵を動かしたりすることが簡単にできるため、プログラミングの知識がない子供でも、すぐに覚えて使えるようになるという。
ケイさんは講演で、「科学には検証が必要で、科学を知識として教えたり、暗記させたりするだけでは、科学を教えたことにはならない」と指摘、米国での実践例を紹介しながら、「米国の7割の学生が『加速度』を理解していないといわれるが、スクイークを使えば『Car’s speed increase by 2』という簡単な命令文で、画面上で車を2ポイントずつ加速させることができる。一方で、実際に砲丸を落として落ち方をビデオ撮影し、コマで区切った画像を並べることもできる。その2つを見比べれば、そこに同じ法則があることが分かる。スクイークを使えば、子供が自分で、自然現象を数学的に検証できる。9割の子供が加速の考え方を理解できる」と話した。
ケイさんは「学習は、子供が心から楽しんで何時間でも夢中になれるものでなければいけない。子供が『何でもできる』と思える環境作りが必要で、サイエンスキッズのプロジェクトで、それが実現できるだろう」と述べた。
◇小学生がプログラム体験
その後、下村勉・三重大教授、京都市立堀川高の藤岡健史教諭らが、スクイークの実践について報告。同高は文部科学省のスーパー・サイエンス・ハイスクールの指定校で、京都大と京都市立の小中高が連携して行っている「アラン・ケイ・プロジェクト」に参加している。同高では、スクイークを使って生徒1人1人がシミュレーションを制作しており、昨年度は「体型変化シミュレーション」、今年度は「音の反射」などを制作した生徒がいるという。
また、小学生20人が参加してワークショップも開かれ、果物と金属板を使って電池をつくり、電圧に反応するセンサーを通してスクイーク上で車を動かした。果物の組み合わせによって電圧が変わるため、子供たちは2人組になって数種類の果物を試しながら、一番良いと思ったものを選んで使っていた。さらに、スクイーク上に描かれたコースに沿って車を動かすためのプログラムを組み、ゴールまでの速さを競った。
ワークショップを見学したデジタルハリウッド大の杉山知之学長は「スクイークは小学生なら簡単に、大学生が使えばかなり複雑なこともできる。これからの子供にとって、コンピューターがブラックボックスではいけない。自分でプログラムを書いて動かしてみて、プログラミングの概念を知ることが必要だ」と話した。
◇科学テーマのコンテストも開催
同委員会では、小学3年~中学生を対象に、科学をテーマにスクイークで作成した作品を募るコンテストを開く。募集期間は12月~来秋の予定で、来年11月に1次審査を行い、20人を選ぶ。通過者は科学やアートの第一人者のスーパーワークショップを受講できる。12月の最終審査会で5人を選び、米国の世界最先端の研究所を訪問し、科学者と交流する。また、全国で年間50回以上のワークショップを行い、子供のスクイーク利用者を2000人に増やしたいとしている。コンテストの選考、ワークショップの講師として、坂村健・東京大教授や元楽天副社長の本城慎之介・横浜市立東山田中校長など教員や研究者ら20人が協力する。
スクイークランド
http://www.squeakland.jp/