こういう感覚は子供のころ確かにあったのに、今は消えてしまった。
第74回全国盲学校弁論大会全国大会で、優勝した北海道札幌盲学校中学部3年の柴田裕里さんの「犬の耳が欲しい」の一節から引用する。
「雨が降る前には少し湿った雨のにおいを感じます。考えてみると日常には、本当にたくさんの感覚があふれている--」
23日まで東京・広尾の「D-ハウス」で開催中の「ダイアログ・イン・ザ・ダーク(暗闇の中の対話)」を体験して、私が視覚以外の感覚をいかにおろそかにしてきたか痛感した。
会場は一歩、中に入ると真の闇。目が慣れても完全な暗闇だ。7人ほどが一緒となり、視覚障害者のアテンド(先導役)に伴われ闇を歩む。
小さな森を通り、橋を渡り、街の駅のプラットホームをこわごわ過ぎて、ブランコに乗り、バーにたどり着く。
本当に暗闇で「対話」することが多い。アテンドはもちろん、参加者同士の声の情報が頼りだ。それに、自身との対話。聴覚、触覚、臭覚など総動員の中、新たな自分と出会う気がする。
アテンドのサポートが実に的確。闇の中で「障害」の立場は逆転する。当日券の問い合わせは、D-ハウス(03・3440・0539)。
エッセイスト・永六輔さんの言葉を思い出す。
「この世の中には、障害を持っている人と持っていない人がいるのではない。障害を持っている人と、まだ持っていない人がいる。だから、障害を持っている人は先輩なのであって、先輩の経験を学ばなければいけない」(専門編集委員)