「ここまで育ててくれたのに恩をあだで返してしまった。大ばかなことをしてしまって本当に後悔しています」。東京地裁で9日開かれた東京都板橋区の社員寮管理人夫妻・ガス爆発事件の初公判で、両親を殺害した長男は、悔悟の念を口にした。公判は成人と同様に公開で行われたが、傍聴席から長男の顔がはっきりと見えないように着席位置が工夫されるなど、異例の配慮がなされた。長男を追い詰めたものは何だったのか、法廷での解明が始まった。
東京地裁の429号法廷。入り口の開廷表に被告の長男の名前はない。また、通常とは逆に、被告が入った後で傍聴人が入廷した。
黒のタートルネックにジーンズ姿の長男は、正面の裁判長と向き合う形で座わり、傍聴席からは後ろ姿しか見えない。裁判長は名前を呼ばないまま「持っている起訴状を見てください」。その場に立った長男は小さな声で「職業が高校生となっていますが、今は退学手続きを取ったので無職です。ほかは間違いありません」と答えた。
認否の後、母親と父親について「何で殺してしまったのか」「命を奪うまではなかった」と振り返り、後悔の言葉を何度も口にした。
8月中旬の検察官送致(逆送)以後、長男は東京都葛飾区の東京拘置所で過ごしている。弁護人が交代で接見し「事件直後は硬かった表情も、だんだん豊かになってきた」という。公判前日は「緊張はしていません。頑張ります」と話したものの、やや不安げな感じだったという。
拘置所では読書をしていることが多く、これまで読んだのは小説や漫画など二十数冊。将来のため電気工学の資格試験の参考書の差し入れも受けた。若い僧が京都・金閣寺に火をつけた事件を題材にした三島由紀夫の小説「金閣寺」を弁護人が差し入れたところ「よく分かりませんでした」と感想を話したという。
朝晩には両親の冥福を祈り、夜中に必ず1回は目が覚めるという。8月の少年審判では父親について「感情的に割り切れない気持ちが残っている」と複雑な思いを表していたが、気持ちにやや変化が見え、最近では「(きちんと話し合うなど)ほかに方法があった」と話しているという。【佐藤敬一、武本光政】