九州南部の雨は峠を越えたが、川のはんらんや土砂災害により計4人が亡くなった鹿児島県では、復旧作業が進むほどに豪雨のつめ跡があらわになった。気象庁は引き続き最大級の警戒を呼び掛け、被災地の住民は、不安と疲労の色を濃くしている。【川名壮志、松谷穣二】
■道路寸断
2人の死者が出た鹿児島県菱刈町では、押し流された土砂で道路が寸断され、水田は泥の海と化した。
同町前目の農業、川添喬さん(68)宅の裏庭には22日夕、土砂とともに乗用車が金網フェンスを突き破って落ちてきた。妻絹子さん(71)が見に行くと、汚泥の中で、つぶれたニワトリ小屋の材木とともに、ぺしゃんこになった白い物体が見えた。泥をぬぐい、初めて車だと分かった。
中から「ドン、ドン」と、運転手がドアをたたく音。「早く助けて!」。絹子さんはずぶぬれになるのも構わず、必死に走って応援を呼んだ。近所の主婦、清水美紀さん(45)も駆け付け「生きていて」と祈った。
警察官や消防団員が、切断した車体をワイヤでつり上げようとするが、作業は進まない。午後9時、ライトに照らされ、車内から千代森新一さん(57)がシートにくるまれ、遺体になって運び出された。「土砂崩れは、あっという間のことだった」と川添さん。
一方、同町下手の宝満令子さん(65)が亡くなった自宅現場は、割れた瓦や折れた柱、家電製品などがごちゃまぜに散乱していた。自宅前の水田は、はんらんした川内川の泥水で水没した。近くの男性は「どうして、こんなことに……」とつぶやいた。
■商店街も泥の海
23日昼ごろ雨が上がった鹿児島県出水市。中心部の本町商店街は一面が泥色。住民らはほっとする間もなく泥水を掃き出すなど復旧作業に追われた。
被害が大きかったのは、商店街の端の数十店。泥水は一時、腰の高さほどまであったという。倉庫に保管していたコピー用紙などが水損したという文具店経営、吉原次男さん(57)は「被害は1000万円くらいあるのではないか」と落胆の表情。崩れた商品で足の踏み場のない薬局店内にいた店員、吉田美紀子さん(52)は「何から手を付けていいのか。保険に入っているはずですが、手続きも分からない」と汗をぬぐった。
毎日新聞 2006年7月23日 19時39分