全日空1603便(乗客乗員60人、ボンバルディアDHC8-Q400型)が高知空港に胴体着陸した事故で、事故機は05年と06年に1回ずつ、飛行中に出発空港に引き返す「イレギュラー運航」を繰り返していたことが国土交通省の調べで分かった。いずれも今回問題となっている「前脚の格納ドア」とは異なる部分の状態が計器上、異常を示していたが、機体には問題はなかった。国交省の航空・鉄道事故調査委員会は、こうしたトラブル歴や現在の機体状態を詳しく調べる。
国交省と全日空によると、事故機は納入されて約5カ月たった05年12月20日、新潟空港を出発。中部国際空港に向けて運航中、操縦席の計器が、プロペラ回転数が制限値を超えていることを示した。その後、点検したが、回転数が異常になることはなかった。さらに06年1月8日、伊丹発松山行きだった時には、貨物室のドアが確実に閉じられていないという警告灯が点灯した。しかし貨物室に異常はなく、ドアの開閉部分に作動油を差したという。
いずれの場合も、当該機はいったん出発空港に引き返していた。国交省は2件とも計器の誤作動とみている。
国交省はこれらを含めて今回の事故と同型機で起きたトラブルに注目。同年2月から航空会社との対策会議を開始し、2カ月後にはそれまでに起きた約45件のトラブルをカナダ側に報告し、対策を求めた。
機体の各部分を動かす油圧系統や電気配線の連結部を巡るトラブルが多かった。ボンバルディア社は「いずれも耐空性に問題はないが、改善努力をする」として部品の交換や整備方法の変更を全日空に連絡する一方で、一部については設計の変更も検討しているという。しかし前脚の格納ドアのトラブルはなく、問題点とされていなかった。
一方、国交省の調べで事故機と同シリーズ機のDHC8-Q300型機が05年4月、トリニダード・トバゴで、今回の事故と同様、前脚が出ないまま緊急着陸した例があることも判明。当時乗客にけがはなかった。機体製造国であるカナダ当局は事故を受けた通達などを出しておらず、機体の問題ではなかったとみられる。【長谷川豊、種市房子】
◇ことば「イレギュラー運航」
航空機の機材などに不具合が発生した場合、万全を期すために目的地とは別の空港に向かったり、出発空港に引き返す運航で、国土交通省がその都度公表している。ただちに航空機の安全に支障を及ぼすような事態ではない。国交省は今年1月から今月13日までに56件を発表している。事故や、事故につながる可能性のある「重大インシデント」とは区別される。
毎日新聞 2007年3月15日 3時00分