【シリコンバレー=兼松雄一郎】米国で金融、エネルギー、医療などのインフラを標的にした高度なサイバー攻撃に対する危機感が強まっている。13日に官民共同で開いた「サイバーセキュリティーサミット」では、米アップルなど企業トップから対策を強化するとの声が相次いだ。中国やロシア、北朝鮮などが企業や政府機関を狙って攻勢を強めており、安全性確保に向けた新技術の開発が急務になっている。
13日の会合でオバマ大統領はサイバー攻撃について「被害者は1億人を超える。家族の安全を守らなければならない」と政府や企業に取り組みの強化を求めた。今後は官民の情報共有や、サイバー攻撃に関する情報を一元化する組織の立ち上げなどに取り組む。
米国ではサイバー攻撃によるクレジットカード情報や医療記録など重要な個人情報の大量流出が相次いでいる。電力会社のシステムへの攻撃も増加。手法の高度化で従来の技術では防げない事例が増えており、新たな対策が必要になっている。
米大手企業が取り組むのが、攻撃の糸口となることが多いパスワードを使った認証の廃止だ。
サミットでは、米マスターカードが顔や声などの生体情報を使った認証サービスを今年中に始めると表明した。ビザ、アメリカン・エキスプレスなどカード大手では、より高度な認証チップを採用したカードへの置き換えや、取引ごとに1回しか使わない暗号の導入などの対策が広がる。
「脱パスワード」では、アップルがスマートフォン(スマホ)の指紋確認と近距離通信を組み合わせた認証システム「アップルペイ」を昨秋に導入している。サミットに参加したティム・クック最高経営責任者(CEO)は「我々は最も安全な製品をつくっている」と自信を示した。米政府がこうした新技術の普及を後押ししていることもあり、「アップルペイ」を採用した金融機関は2千まで広がっている。
サイバー攻撃の被害を抑えるには、初期段階で攻撃を検知することがカギとなる。サミットでは、シマンテックやパロアルトネットワークスなどセキュリティーソフト大手が、攻撃検知の成功例などの情報共有を拡充していることを明らかにした。事業面では各社は競合関係にあるが、インフラなど社会への影響の大きい事例については協力を深め、米社会全体の抵抗力を底上げする。