日本郵政グループは18日、オーストラリア物流大手を買収するなど今秋を目指す株式上場をにらんだ事業戦略を発表した。「国際物流で世界5位以内を目指す」として、海外展開に打って出る。民業圧迫との批判から業容縮小を続けてきた民営化路線は、上場をきっかけに成長路線へシフトするが、人材難など課題は多い。
日本郵政は64億8600万豪ドル(約6200億円)を投じて、6月にも豪物流大手、トール・ホールディングスを日本郵便の完全子会社にする。買収額は郵政グループとしては最大となる。同日、記者会見した西室泰三社長は「企業間物流に強いトール社は最高の相手」と強調した。両社は「世界でトップ5に入る国際物流グループになる」(日本郵便の高橋亨社長)と意気込み、最大手のドイツポストDHLなどを追撃したい考えだ。
日本郵政にとって国際物流への進出は悲願だ。子会社の日本郵便の売上高は約2兆7千億円だが、海外事業はほぼ手つかずだ。電子メールの発達で郵便ビジネスは低迷し、成長する宅配便事業はヤマトホールディングスなどに差をつけられている。活路を海外に見いだす日本郵政にとって、アジアなど55カ国に1200以上の拠点を持つトールは格好の相手だ。
ただ世界大手の背中は遠い。日本郵便とトールの合計売上高は約3兆5千億円。ドイツポストDHLの年間売上高は約7兆4千億円あり、利払い・税引き前利益も4千億円近い。米物流大手のUPSも売上高が約6兆9千億円と規模は大きく、大手は航空、海上網も含めて世界に根を張る。日本郵便は今期、最終赤字に転落する見込みで、トール社の純利益も270億円にとどまる。規模、収益性とも、もう一段のてこ入れが欠かせない。
国際物流を運営する人材の確保も課題だ。日本郵政は2010年に国内で宅配便事業を日本通運の「ペリカン便」と統合したが、システム運営に失敗して大規模な遅配を起こしたことがある。日本郵便は買収後もトール社の経営陣などをそのまま残して運営を続けることにしたが、それは日本側の人材難の裏返しでもある。
トールの買収価格は17日の同社株終値を49%も上回る。第一生命保険が米中堅生保のプロテクティブ生命を買収した際の上乗せ幅は、直近1カ月の株価の約35%。サントリーホールディングスによる米ビーム買収でも25%程度だった。西室社長は「成長の時間を買った」と力説するが、高額買収の成果は両社でノウハウを持ち寄って相乗効果が発揮できるかどうかにかかっている。
日本郵政は03年に公社となり07年に株式会社となった。今になって国際物流に本格進出するのは、今秋に日本郵政、ゆうちょ銀、かんぽ生命保険の3社同時上場を計画するためだ。郵政株に投資してもらうには「明確な成長戦略を描く必要がある」(西室社長)。
もともと郵政民営化は肥大化した公的金融部門や郵便事業が「民業を圧迫する」と批判されて始まった。そのため郵便貯金残高はピーク時(1999年度末)には260兆円あったが、今では180兆円弱まで減るなど事業縮小の歴史でもあった。成長路線に転換するには、業容のさらなる拡大だけでなく事業運営の質を高める必要がある。