任天堂がディー・エヌ・エー(DeNA)と提携し、これまで一貫して距離を置いてきたスマートフォン(スマホ)向けのゲームに乗り出す。「マリオ」など任天堂の人気キャラクターも聖域を設けずスマホゲーム向けに提供する考えで、大きな方針転換といえる。だが両社で新たに開発するというゲームがどこまで収益改善につながるか。家庭用ゲーム機との自社競合の懸念などリスクを抱えた賭けになる。
「よく任天堂は追い込まれているといわれるが、そうは思っていない」。17日に都内で開いた記者会見で任天堂の岩田聡社長は語気を強めた。
任天堂はハード(家庭用ゲーム機)とソフトを一緒に手掛けるビジネスモデルを強みにしてきた。だがスマホゲームの台頭で家庭用ゲーム機の販売が低迷し、2014年3月期まで3期連続で営業赤字を計上。記者会見での発言とは裏腹に、業績低迷は否定できない。
これまで岩田社長は「スマホゲームはコンテンツの新陳代謝が激しい」などと繰り返し、慎重な姿勢を崩さなかった。だが水面下では複数のゲーム会社と接触していた。従来のビジネスモデルに固執していては、じり貧になるとの危機感が高まったとみられる。
DeNAは10年6月に自社のソーシャルゲーム「モバゲー」に任天堂のキャラクターを出してほしいと打診し、交渉が始まった。昨夏から具体的な話に入り、「互いの強みが補完関係にあることが分かった」(岩田社長)という。
任天堂は世界に通用するキャラクターを数多く抱えている。DeNAはIT(情報技術)に強くデータ処理などのノウハウが豊富だ。ゲームの開発そのものは主に任天堂が担い、サーバー運営や利用状況の分析でDeNAが主体となりそうだ。
任天堂はゲーム機用のソフトをそのままスマホに出すわけではなく、新たにスマホゲームをつくる方針だ。仮にソフトをそのまま出せば、スマホとゲーム専用機が需要を食い合うリスクが高まる可能性もある。
岩田社長は開発コードで「NX」と呼ぶ開発中の新型ゲーム専用機を16年に発表することも明らかにした。スマホゲームとの自社競合で「ニンテンドー3DS」などを含むゲーム機事業が打撃を受ければ影響は大きい。任天堂は屋台骨を支えるゲーム機のビジネスを守る意識は依然として強いようだ。だがスマホゲームを事業の柱とする有力企業と競争し、ヒットを生むのは容易ではない。
ガンホー・オンライン・エンターテイメントの「パズル&ドラゴンズ」やミクシィの「モンスターストライク」が強いが、ソフトのはやり廃りは激しい。「マリオは食いつきが良く、上位に入るかもしれないが、ずっと(上位に)残れるかは分からない」(業界関係者)との見方もある。
またゲームの利用状況に応じて難易度を調整したり、課金に誘導したりする、家庭用ゲーム機にないノウハウが必要だ。DeNAは携帯電話向けゲーム事業の「モバゲー」のノウハウは持つが、スマホの波に乗り遅れ、自社がゼロから開発した有力なスマホゲームのタイトルに乏しい。
国内の家庭用ゲーム市場は縮小が続き13年で4千億円程度。一方、スマホゲーム市場は14年に7千億円を超えたとの見方もある。任天堂はさらに思い切った戦略転換が求められる可能性がある。