理化学研究所は1日付で経営陣を刷新し、新体制が始動した。記者会見した松本紘・新理事長は「理研や科学への信頼を取り戻す」と意欲を示した。STAP細胞の研究不正問題を受けて取り組んでいる改革案については「実効性のあるものにするのが役目」と強調した。
理化学研究所の理事長に就任し、記者会見する松本紘氏(1日、東京都千代田区)
理研はSTAP細胞の研究不正で信頼が失墜した。まず信頼回復の条件に挙げたのが、外部の委員会がまとめたアクションプランの実行と現場との対話だ。
アクションプランは研究記録の管理や倫理教育、研究者個人の法令順守の徹底を求めており、確実な実行に努める。さらに「研究者の意見を聞くため各地の理研の研究センターを訪問したい」と述べ、自身で改革案も示す考えを明らかにした。
理研は4月から、その他の研究開発型独立行政法人とともに国立研究開発法人になった。それまでの独立行政法人とは違い、研究の効率を最大限高める努力が必要になる。
松本理事長は理研の役割を再定義し「理研全体として社会の課題解決に取り組む」と語った。研究論文を出すだけでなく、スーパーコンピューター「京」のような国の基盤となる研究や、iPS細胞を使った再生医療などの研究に携わる公的機関として、社会や産業に貢献する責任があるとの立場を明確にした。
ここまで理研に批判が集まったのは、研究チームのずさんなデータ管理などを放置し、論文不正発覚後の対応で後手に回ったからだ。
今後は研究現場の管理が一段と厳しくなるとの見方に対して、松本理事長は「不正が起こらないようにするのは大前提。しかし研究者の自由な発想がなくなれば成果が出ない。このバランスが大事」と主張した。研究者の活力を損なわない環境づくりに力を入れる意向を表明した。
松本理事長は京大学長を昨年9月まで約6年間務め、若手研究者の育成策などの改革をやり遂げた。若手研究者を国内外から公募し、自由な環境で研究してもらう制度を創設。医学部への飛び入学制度も実現した。
こうした大学での経験を理研に生かす考えで「研究をベースにするという点では同じで役立つ部分はある」と自信をみせた。学長時代を「(京大時代に改革したのは)数えてみれば200項目くらいはあるかもしれない」と振り返り、「改革は改善の延長。小さいものから積み重ねて理研を一流の研究機関にしたい」と意欲をみせた。
また論文の不正にかかわった小保方晴子・元研究員については「基本的なリテラシーが足りないという指摘があるが、そうではないかと思っている」と話した。
▼理化学研究所 1917年に発足した日本を代表する研究機関。生物学や材料科学など自然科学を専門とする国内最大の機関で、体内に必須のビタミン類の発見など世界水準の成果が知られる。埼玉県和光市にある本部を中核拠点に、横浜市や神戸市など全国に研究所がある。2014年4月現在で人員は約3500人、予算規模は834億円になる。