【モスクワ=古川英治】ロシアのプーチン大統領は8日、債務問題で欧州連合(EU)と対立するギリシャのチプラス首相とモスクワで会談した。EUの対ロ制裁への対抗策としてロシアが発動した欧州の農産物の禁輸措置の中で、ギリシャ産の規制を緩和することなどを協議。チプラス首相はEUの対ロ制裁に反対を表明した。ロシアはギリシャなどの取り込みを進め、EUの切り崩しを狙う。
チプラス首相は会談後の共同会見で「EUの対ロ制裁には賛成していない」「制裁による悪循環を断ち切るべきだ」などと主張した。プーチン大統領は「ギリシャから金融支援の要請はなかった」としたうえで、農業やエネルギー、インフラ分野での協力を提案した。
ウリュカエフ経済発展相によると、ロシアはギリシャ産の果物などの輸入規制を緩和する方向で、ロシアのメドベージェフ首相が9日、チプラス首相に具体策を提案する。プーチン大統領はトルコとの間で計画する天然ガスの供給計画への参加もギリシャに呼びかけた。
チプラス首相は当初、モスクワで5月9日に開く対独戦勝70周年記念式典に合わせて訪ロする予定だったが、金融支援の延長交渉でEUと対立を深める中で訪問を前倒しした。
ギリシャの財政改革を前提とするEUと国際通貨基金(IMF)、欧州中央銀行(ECB)の金融支援の継続を巡る交渉は難航しており、ギリシャの資金繰りは逼迫している。チプラス首相はロシアに接近する姿勢を見せることで、EUに揺さぶりを掛ける思惑があるとみられる。
ギリシャは経済的な実利の確保も目指している。同国政府によると、イチゴや桃などの果物は対ロ輸出の2割程度を占め、農産物の禁輸措置により2014年後半だけで8000万ユーロ規模の損害が出ている。天然ガスの6割強もロシアからの輸入に依存している。
EUはロシアのウクライナへの軍事介入を受けて導入したロシアの金融機関や銀行を対象にした制裁を延長するかどうかを6月に判断する。延長には加盟28カ国すべての賛成が必要となる。ロシア政府筋はギリシャが1国で延長に拒否権を発動するとは期待していないとしながら、「EU内の制裁反対勢力を増やせば、フランスやスペインなど大国も動かせる」と発言した。