1日の東京株式市場で富士通の株価が急落した。一時は前日比19%安の643円20銭と値幅制限の下限(ストップ安)まで売られ、3カ月ぶりの安値を付けた。2016年3月期の見通しが3割減益となり、株式市場でIT(情報技術)需要拡大による成長期待が急速にしぼんだためだ。今期計上する「戦略費用」の使い道が明確でないのも、不信感を招いた。
4月30日に発表した16年3月期の連結純利益(国際会計基準)見通しは1千億円と前期に比べ29%減る。これまでの株高をけん引していたのは、東京五輪に向けたIT需要の拡大が業績を押し上げるとの期待だ。今期の営業利益は2100億円程度と予想する投資家が多かったが、会社側の見通しは16%減の1500億円で、投資家の失望が一気に広がった。
来期に営業利益を2500億円まで増やすとする中期経営計画についても、決算説明会で田中達也副社長が「適切な時期に見直す」とした。成長ストーリーに不透明感が浮上した。
欧州のパソコン事業は部品を主にドル建てで調達し、収益がユーロ建てとなるしくみだ。ユーロ安・ドル高で採算が悪化する。パソコンを含む「ユビキタスソリューション事業」の営業損益はゼロ(前期は87億円の黒字)となる見通しだ。
今期は300億円の「戦略費用」を計上すると表明した。「顧客に最適なサービスを提供するための体制作り」(田中副社長)の費用とする説明にとどまる。「投資家との対話を進めるという今の日本企業の流れに逆行している」(JPモルガン証券の森山久史シニアアナリスト)との指摘があり、株売りに拍車をかけた。
主力の国内ITサービスは企業や官公庁向けが順調に伸びる。減益の一因であるユーロ安も足元では歯止めがかかりつつある。予想PER(株価収益率)は13倍台まで低下し、「指標面では割安」(国内証券)との声も出ている。だが、不透明な要素が増え、投資家が戻ってくるには時間がかかりそうだ。