経営再建中のマレーシア航空の最高経営責任者(CEO)に5月に就任したクリストフ・ミュラー氏は1日、「2018年の黒字化を目指して聖域なき改革を進める」と宣言した。2万人いる従業員の3割を削減することを柱とした徹底的なリストラで、低運賃競争が続くアジアでの競争力回復を目指す。昨年3月の機体消失事件から迷走を続けた同社の再生が動き出した。
クアラルンプール国際空港に駐機するマレーシア航空機(3日)=写真 浅原敬一郎
「我々は事実上の倒産状態にある」
クアラルンプール近郊の同社本社。ミュラー氏はこんな言葉で記者会見を切り出した。
1990年代末のアジア通貨危機後に経営が悪化し始めたマレーシア航空。数度にわたって再建を進めてきたが、業績悪化に歯止めをかけられなかった。昨年に相次いだ墜落事件を契機に客離れが深刻化。最終的に国営投資会社カザナ・ナショナルを通じた再国有化による再建が決まった。
ミュラー氏が掲げる再建策の柱は大胆なリストラだ。厳しい現状認識を口にすることで、社内に残る“甘え”を断ち切る狙いがうかがえる。
総コストを2割削減するリストラの柱が人員の削減だ。全部で2万人の従業員の3割にあたる6000人を解雇する。すでに同社は再建に向けて会社を2つに分割済み。現在営業中の「旧会社」は8月31日で営業を終え、9月以降は「新会社」に資産や運航業務を引き渡す。新会社は解雇対象外の1万4000人と新たな雇用契約を結ぶ。
同社の経営は機体消失事件の前から傾いていた。過大な人件費が主因と何度も指摘されたが、これまでは人員削減に踏み切れなかった。同社の労働組合は政権与党の有力な支持基盤で、政権に圧力をかけて数々のリストラ策を葬ってきた。だが、新経営陣は5月27日に6000人に解雇を通知。ミュラー氏は「今年は激しい改革の1年目」と決意を語る。
「取引先は2万社もいらない。2000~2500社で十分だ」
リストラの矛先は社外にも向かった。業務委託などで2万社と取引があるが、不当な高値発注が指摘されている。すでに全ての機内食を発注していた企業との契約を見直し、発注額の25%カットを飲ませた。ミュラー氏は「今後2~3年かけてすべての契約を洗い直す」と明言した。
新会社は機体運航やサービスなど12部門に分け、それぞれの部門にコスト削減などの目標達成を求める。従業員教育などの部門では外部企業と競わせ、場合によっては外部への業務委託を検討する。生産性の低さが指摘される従業員の意識改革が狙いだ。
ミュラー氏は会見で欧州エアバスの大型機2機の売却に向けた交渉を進めていることを明らかにした。それ以外の計画は「現在交渉中」として公表は拒んだが「保有機体と路線の縮小を進める」と強調。「聖域なきリストラ」を通じてコスト競争力が高い航空会社として再生することを目指す。
「消費者の9割が運賃を比較して航空会社を選ぶ」
徹底的なリストラを支えるのは運賃の安さが競争力となるとの信念だ。ミュラー氏は「アジア太平洋の航空会社の競争はなお激しくなる」と予測する。東南アジアの主要航空会社は15年1~3月期に原油安で業績が盛り返したが、老舗航空会社と格安航空会社(LCC)による運賃引き下げ競争は激しさを増している。マレーシア航空が再び輝きを取り戻せるか。コスト・カッターの手腕に注目だ。
(クアラルンプール=吉田渉)