【アテネ=佐野彰洋】欧州連合(EU)との金融支援を巡る交渉が決裂し、ギリシャのチプラス政権は瀬戸際に追い込まれた。債務不履行(デフォルト)の恐れとともに、ユーロ圏に残留するかどうかも焦点に浮上。ギリシャ議会は28日、EUが求める構造改革案受け入れの是非を問う国民投票を7月5日に実施すると決めたが、これがユーロ圏にとどまるかどうかの分かれ道となる。「民意」を盾に交渉決着を先延ばしにしてきたチプラス首相の姿勢が、国を混乱に陥れた面は否定できない。
「国民は最後通告に断固としたノーを示すだろう」。28日未明、採決前の討論に立ったチプラス首相は、追加の年金抑制策や付加価値税(VAT)税率引き上げを求めたEUの提案を「国民を侮辱した」と改めて非難。国民投票では反対票を投じるよう呼び掛けた。
親EU派の野党党首は「チプラス氏は辞任すべきだ」(全ギリシャ社会主義運動)、「国をEUから脱退させ、崖から突き落とそうとしている」(ポタミ)と激しく批判した。それでも国民投票の是非を問う採決は賛成票が178と承認に必要な過半数(151)を上回った。首相が率いる急進左派連合(SYRIZA)と連立相手の独立ギリシャ人党に加え、極右野党も賛成に回った。
27日のユーロ圏財務相会合がギリシャの求める支援期間延長に応じなかったことで、現行の支援枠組みは30日で失効する。債権団が救済措置を講じない限り、国民投票で賛否を問うはずの支援の5カ月延長、155億ユーロ(約2兆1000億円)の融資を柱とするEU提案は宙に浮く形となる。
このため国民投票は事実上は「ユーロ圏にとどまることに対し、イエスかノーかを問うもの」(最大野党・新民主主義党を率いるサマラス前首相)とならざるを得ない。
国民の多くは緊縮財政を受け入れてユーロ圏残留を支持するが、賃金や年金の大幅カット、大量の失業など過去5年の「緊縮疲れ」への不満も蓄積している。首相の発言に呼応する形で万が一、反対が賛成を上回れば、EU離脱の意思を示したと全欧州が受け止める。
そもそも国民の意思を示す前に、30日は国際通貨基金(IMF)への15億ユーロの債務返済と自国民向けの年金支払いの期限を迎える。IMFのラガルド専務理事は「猶予期間はない」と明言。EUからの資金支援の望みも絶たれ、デフォルトに陥るとの懸念が広がる。
ギリシャ政府がデフォルトに陥れば、欧州中央銀行(ECB)が同国債を大量に保有するギリシャの民間銀行に対して厳しい見方を強めるのが避けられず、同国の金融システムがさらなる危機にさらされる恐れもある。
6月以降、ユンケル欧州委員長やメルケル独首相と直接折衝を繰り返したチプラス首相は、EU側の政治決断を引き出して交渉をまとめられるとの楽観論を抱いていた。ところが約束した財政改革を実行してこなかったギリシャに対し、債権団は厳しい姿勢を崩さなかった。捨て身の国民投票実施宣言も、債権団が支援の期限延長を拒んだため譲歩を引き出す戦術としては不発に終わった。
「反緊縮」を掲げて政権の座に就いたはずのチプラス氏は、国民の民意を背にしながら自らは政治決断に踏み切れず、最後はユーロ圏にとどまるか否かの重大な決断を改めて国民に丸投げした。自ら選んだ政権が、ギリギリまで妥協案の提出を遅らせた自滅的な交渉手法のツケを、国民は支払わされようとしている。