【アシガバート〈トルクメニスタン首都〉=福岡幸太郎】安倍晋三首相がトルクメニスタンを手始めに中央アジア5カ国を歴訪している。日本の首相が5カ国すべてを訪問するのは初めてだ。首相は各国でトップセールスをかけ、日本企業の事業拡大をめざす。背景には、経済関係の強化を資源の安定確保につなげるとともに、同地域で影響力を増す中国をけん制する狙いがある。
首相は23日、トルクメニスタンのベルドイムハメドフ大統領と首都アシガバートで会談し「日本は地域協力の触媒として寄与していく考えだ。大統領の協力を得たい」と強調した。来年、同国で「中央アジア+日本」の枠組みで外相会議を開くことを踏まえたものだ。
日本の首相が中央アジアの国を訪れたのは、2006年に小泉純一郎元首相がカザフスタンとウズベキスタンを訪問して以来。その他3カ国は初訪問だ。
今回の訪問で首相は各国大統領にトップセールスをかけ、日本企業の受注につながる合意をまとめていく考え。5カ国はいずれも大統領の権限が強く、同行筋は「トップセールスがここまで効く国はなかなかない」と話す。
日本が5カ国との経済関係の強化に力を入れる理由の一つは、石油や天然ガス、ウランなど豊富な資源の安定確保だ。それに加え、外交や安全保障面でも日本にとっての重要性は高まっている。
中央アジアは旧ソ連圏で、かつては「ロシアの裏庭」といわれた。だが最近では地理的にも近い中国の存在感が急速に高まった。中国は「一帯一路(新シルクロード)構想」を掲げ、陸路では中央アジアを要衝として欧州へとつながる一大経済圏の構築を狙っている。
各国の貿易額はすでに対中国が対ロシアを上回る。中国はアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設でインフラ受注の拡大も狙う。トルクメニスタンを除く各国はAIIBに参加。安全保障や経済分野などで協力する上海協力機構(SCO)の加盟国でもある。
ただ、外交筋によると、中央アジア諸国の中にも「中国に傾斜しすぎるのは得策ではない」との思いがあるという。
中ロなどへの資源輸出に頼った経済構造は資源価格の変動に脆弱だ。日本は資源権益の獲得だけでなく、高度な化学プラントの建設など付加価値の高い産業の育成や技術移転を進める方針。首相も23日のトルクメニスタンでの記者会見で「天然ガスを活用した産業高度化に官民挙げて最大限協力する」と強調した。
日本との良好な関係は中央アジア各国にとっても「対中けん制」の意味合いを持つ。経済面でも軍事面でも圧倒的な規模を持つ中国は近隣国には脅威でもある。アジアの中で中国への発言力を持ち、米国とも同盟関係にある日本との関係構築は、外交上のパワーバランスを保つ策ともなる。
各国にとっては、南部で国境を接しているアフガニスタンからのテロリストや麻薬流入が悩みのタネになっており、「国境管理や麻薬対策でも日本の貢献の余地は大きい」(外交筋)という。経済協力や治安対策を通じて地域の安定に貢献することは、日本にはアフガンで軍の駐留を延長した米国を側面支援することにもつながる。