政府は15日、地域限定で規制を緩和する「国家戦略特区」として九州では北九州市を新たに選んだ。産業ロボット大手の安川電機が本社を構えるといった地域の強みを生かし、介護ロボットの実用化を後押しする。同市は介護分野のサービス充実や高齢者の働きやすい環境づくりを進め、高齢化社会への対応の先駆けを目指す。産業活性化や人材集積を促し、地方創生の加速を狙う。
政府は同日に国家戦略特区諮問会議(議長・安倍晋三首相)を開き、北九州市を含む4自治体の特区指定を決定。同市が6月に国に提案した規制改革案に基づき、最終的に「高年齢者の活躍や介護サービスの充実による人口減少・高齢化社会への対応」というテーマの特区として認定した。
特区の中核となる取り組みは介護ロボットの実用化だ。北九州市に本社を構える安川電機は、産業ロボットに加えて、医療・介護分野の事業を加速。歩行支援ロボットを発売したほか、要介護者がベッドから車いすに乗り移るための移乗補助装置の開発を進め、一部では実証試験も始めている。市内にある産業医科大学や九州工業大学との連携も期待できる。こうした強みを生かし、高齢化社会での介護需要への対策に役立てる計画だ。
特区指定を受けて15日に記者会見した北橋健治市長は「ロボットが高齢化社会でどんな役割を果たせるかという(市の提案の)テーマが評価された」と強調した。介護分野では、福祉施設の運営に市役所の職員が携わることなどを想定し、官民の間で人材が移動しやすい仕組みもつくる。
高齢者雇用のマッチングを担う「シニア・ハローワーク」も設ける。首都圏などのシニア層が、北九州にUターンして働き続けたい場合などに利用してもらう。高齢者雇用の拡大につなげ、地域への人材集積やノウハウ還元を進める。
北九州市は住民のうち65歳以上の高齢化率が28.5%(9月末時点)と、政令指定都市で最高となっており、全国の大都市に先んじて高齢化が進んでいる。介護人材不足などの課題への解決策を探るには適地といえる。練り上げた介護の仕組みをパッケージ化すれば、アジアを中心とした海外に売り込むこともできる。
今回の特区ではこうした将来を見据え、国内外からの訪問者が増え地域間関係が強化できる地域づくりも目指す。一般住宅に旅行者らを有料で泊める「民泊」の導入を想定。「門司港レトロ」地区などの歴史的建造物も宿泊可能として観光の目玉とする案も検討する。
九州では、すでに福岡市が雇用分野の規制緩和を主軸とした特区に指定されている。北九州市の特区は、国の制度上は福岡市に合流し、「福岡地域」の特区として推進される形となる。今後、来年を予定する改正国家戦略特区法の成立後に正式指定を受け、具体的な事業計画を詰める方針だ。