【ドバイ=久門武史】イラン各地で8日、サウジアラビアがイスラム教シーア派の宗教指導者を処刑したことに抗議する集会が開かれた。7日にはイランがイエメンの首都サヌアにあるイラン大使館がサウジ軍の空爆を受けたと主張し、サウジ側が真っ向から否定した。断交した両国間の対立は泥沼化している。
イランからの報道によると、抗議集会への参加者は「(サウジを統治する)サウド家に死を」と連呼したり、サウジが処刑したシーア派の宗教指導者ニムル師の写真を掲げたりした。集会はイスラム教の金曜礼拝の後に開かれた。礼拝では「サウド家は独裁者サダム・フセイン(元イラク大統領)より哀れな末路をたどるだろう」などと厳しくサウジを批判する説法が相次いだ。
イランのアブドラヒアン外務次官は7日、イエメンのイラン大使館について「サウジ戦闘機の空爆でミサイルが大使館の近くに着弾した」と表明。直撃はしなかったことを認める一方、負傷した警備職員のうち1人が重傷だとした。そのうえで、近く報告書を国連に提出する考えを示した。
これに対し、イエメンに軍事介入しているサウジ主導の連合軍は同日、イランの主張を「虚偽」と断じ「大使館付近では作戦を実施していない」と否定する声明を出した。大使館の建物に損傷がないとも強調した。サウジなどイスラム教スンニ派諸国の連合軍は内戦状態のイエメンで、シーア派武装組織「フーシ」を狙った空爆を続けている。
サウジが2日にニムル師ら47人の処刑を発表した後、シーア派国家のイランでは抗議する群衆が首都テヘランのサウジ大使館を襲撃。3日に外交関係を断絶したサウジに同調し、バーレーン、スーダン、ジブチ、ソマリアが断交を決めている。
イランにはサウジによる「大使館空爆」をやり玉に挙げることで、テヘランのサウジ大使館襲撃に国際的な批判が集中するのを避ける思惑もあるとみられる。イランは7日、サウジからの輸入禁止を決めた。サウジは断交宣言に続き4日、イランとの商業関係を断つと表明している。
サウジのムハンマド副皇太子は英エコノミスト誌のインタビューで、イランとの関係について「(両国間の)戦争は中東地域の破局の始まりだ」と指摘。「そのようなことは許さない」と明言し、武力衝突に至る可能性を否定した。同時に、イランがサウジ国内の法手続きに基づく処刑に抗議するのは「中東諸国への影響力拡大を狙っている証しだ」と不快感を示した。