支援物資の集積地となっているスイカの選果場。水と食料のほか、大人用、子供用のおむつが多いという=19日午後2時21分、熊本県益城町、福岡亜純撮影
■熊本地震
国が被災地に「90万食を送る」と発表した最初の3日間が過ぎた。各地の避難所には物資が届き始めているが、被災自治体側では依然として情報不足に戸惑う声もくすぶる。被災者が必要としているものとのミスマッチも生まれ始めている。
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最初の地震が発生してから5日。被災地では国が進める「プッシュ(押す)型」による支援物資の搬入が本格化している。必要とされる食料の量を国が予想し、県を通さず直接避難所などに運ぶ仕組みだ。
約9千人が避難生活を送る熊本県益城町。救援物資の集積地となっているスイカの選果場に19日夕、政府の支援物資を積んだトラックが到着した。中身はレトルトパックのご飯やおにぎり、パン、災害用の携帯トイレ、簡易トイレなど約10トン。町職員によると18日朝、政府の物資が届くと県から連絡があったという。簡易トイレは町が要望した。
17日ごろから届く物資が増え始めた。一方、避難所などでの炊き出しも増え、弁当類は余裕が出てきたという。町職員は「次第にシャンプーや子ども用歯ブラシ、ウェットティッシュなどを求める声が強くなってきている」。被災者のニーズとのズレを指摘した。
同町の避難所「グランメッセ熊本」には19日夕、自衛隊のトラックがペットボトル入り飲料水(2リットル)約2千本を運び込んだ。ただ、ここでは自衛隊が24時間態勢で給水を続けており、町職員は「水は足りている」。そもそも連絡もなかったといい、職員は「何も聞かされていない。どこから来た水かもわからない」と困惑していた。
同県南阿蘇村の南阿蘇中学校体育館に設けられた避難所。同日、水や米、レトルト食品が多く届いたが、村の担当者は「政府からの支援物資なのか、把握できていない」。むしろ消毒用アルコールや歯ブラシ、簡易トイレが不足しているといい、避難生活を送る長野寿美さん(69)は「感染症が広がるのでは」と話した。
情報伝達の仕組みが整ったとはいえない状況への自治体側の戸惑いも続く。5万人超の避難者がいる熊本市の担当者は、国から配分リストは届いていないと説明。県で支援物資を担当する職員も、どれだけの物資が実際に避難所に届いているのかについて「率直に言ってわかりません」と話す。
■きめ細かな対応、課題
農林水産省は17~19日の3日間で、計90万食の食料の発送を予定通り終えられそうだと発表した。避難者10万人に3日間、配ることができる数だ。当面、1日30万食のペースで送る。20日以降は1日60万食に増やすと18日に発表したが、「政府内のやりとりで混乱があった」と訂正した。
農水省は、今後はパンやおにぎりだけでなく、缶詰や栄養補給食品なども届ける考えだ。
国が「プッシュ型」支援を進めたのは、水や食料など必要最低限の支援物資を確実に届けるためだった。
まず全国から、大型の倉庫を持つ日本通運の鳥栖営業所(佐賀県鳥栖市)に集め、そこから自衛隊が被災地の避難所まで運ぶしくみをつくった。当初は、自治体が指定する場所に届ける予定だったが、「なかなか物資が届かない」との批判もあり、自治体とのやりとりを待たずに出荷するやり方に変えた。
食料以外の物品や水は、福岡県内の大手物流会社の倉庫に集め、物流会社が手分けして避難所に運ぶ。
このしくみは19日から本格的に運用が始まった。国土交通省の担当者は、「避難所側からも注文が入ってくるようになり、うまくいきつつある」と言う。物資のスムーズな運搬を妨げていた渋滞も、通行止め区間が減るのに伴い、少しずつ改善に向かっている。
ただ、少人数が避難している場所や、自宅近くの車などに避難して寝泊まりしている人にまで行き渡っているとは言い難い。避難所ごとに今何が必要か、というニーズまで、国が知ることも難しい。きめ細かな対応には、ボランティアなどの力を使う態勢づくりも課題になる。