七冠独占を決めた井山裕太名人は終局後、日本棋院で記者会見に臨んだ。報道陣との一問一答は次の通り。
井山名人、前人未到の囲碁七冠独占 十段を奪取
七冠達成の井山「ゴールではない」 世界戦へ決意新た
――七冠を達成した今の心境は。
「この数年目標にしてきたことを達成できて非常にうれしい。今は熊本の震災で大変な思いをしている人が多い。素直に喜べる状況ではないが、被災者の方々にいいニュースとして受けとっていただけたら、うれしく思う」
――これだけ多くの報道陣が来ている状況を冷静に見ることができたか。
「囲碁という競技に注目していただけることはなかなかない。せっかくの機会なので、これをきっかけに囲碁の魅力をもっと知っていただく、いい機会にできればと思った」
――一つのことを極めることは若い世代の励みになる。若い世代に一言お願いしたい。
「私自身、今の結果が信じられない思いが強い。自分は囲碁を極めたと思っていないし、未熟だと感じる部分が多い。これまでと変わらず努力していかなければならない」
――井山さんは子どもたちに囲碁を広げたいと言ってきたが、囲碁の魅力をどう伝えたいか。
「海外に比べて若い世代、子どもたちの囲碁の認知度はまだまだ低いところにある。現在、学校などで普及も進んでいると感じているが、七冠を一つのきっかけに、囲碁の魅力をもう少しうまく伝えていかなければならない。私だけではなく、囲碁界として考えていかなければならない」
――最初に六冠になったのが3年前。七冠達成までの道のりをどう感じているか。
「六冠になった時、周囲の人たちが六冠から七冠へと思うのは当然。私も七冠を目標にしていた。だがこの数年、その難しさ、大変さを身をもって感じていた。そう思うと、こういう結果になったのは信じられない」
――今後の世界戦での活躍にさらに期待がかかる。そこへの思いをうかがいたい。
「世界戦はここ数年、自分自身も出場するチャンスが少ない中で戦いが続いている。だが少ないとはいえ、チャンスがないわけではなく、期待に応えきれているとは言えない。今後さらにそこへの思いは強くなってくると思う。世界戦を盛り上げるためにも、自分が頑張らないと。少しでも貢献できるようにとの思いが強い」
――人工知能と対局をしてみたいか。
「人工知能とイ・セドルさんの対戦を興味深く見た。新たな囲碁の魅力、人間にはない発想、少し違う発想を感じた。アルファ碁だからコンピューターだからということではなく、強い相手と戦いたいという気持ちは自然にわきあがってくる。どういうものなのか、対戦してみたいという気持ちはある」
――十段戦第3局と第4局の間に震災があったが、この1週間での思いを聞かせてほしい。
「第3局の日に地震があった。5年前、東日本大震災の時も対局をしていた。棋士として、そんな時に囲碁を打っていていいのかという思いがあった。なんとか少しでも期待をしてくれた方々に、囲碁をいいニュースとして伝えたいし、囲碁で何かできればと思う」
――将棋の羽生善治さんも20代で七冠を達成した。井山さんは26歳での達成をどう思っているか。
「七冠は子どもの時からの夢とも、プロになってからの夢とも考えたことはない。意識しだしたのは、六冠になった時。この数年、そこに向けて全力で向かってきて、その大変さを感じた。六冠から四冠に後退した時、七冠は無理かなと思っていた」
――井山さんは負けた後が大事だと言ってきたが、第3局の後の約1週間をどう過ごしたか。
「第3局はベストを尽くしたが、伊田さんの強さを感じた一局でもあった。その後も普段と違うことをしたのではない。負けても次の対局に引きずらないように切り替えることをしている。それはうまく出来たかなと思う」
――囲碁棋士として七冠を上回る目標はあるか。
「七冠になったからといって今後特別に何かを変えることはない。目標としては、究極的には世界で一番強くなりたい。自分は未熟だと感じる。まだ強くなれる余地はある。成長していきたい」