2階の両端の席付近からは、舞台の一部が見えない=長野市芸術館
席につくと、ステージがよく見えない――。今月開館した長野市芸術館には、いわくつきの席がある。「見えない席」も芸術なの?
「世界と長野市を芸術で結ぶ」
長野市がそうアピールする市芸術館は、世界的建築家の槇(まき)文彦氏が設計した。芸術監督は県ゆかりの作曲家・久石譲氏。計1292席のメインホールで8日にあったこけら落とし公演は満席だった。
ところがこのホール、開館までトラブル続きだった。
昨年12月上旬。建物の引き渡しを受けた市の担当者がメインホールを確認したところ、2階の左右両端付近の席でステージの一部が見えない「見切れ席」が約90席あることが判明。席の前にある転落防止用の壁が視界を遮り、ステージの約4割しか見えない席もあった。槇氏側は設計ミスを認め、改修費を全額負担した。
市は年明けから座席のかさ上げ工事に入り、見切れ席と周辺の計218席の下に、高さ18~26センチの金属製の土台を入れた。視界は2~3割向上したが、ステージの3割以上が見えない席も16席残った。市は「安全や使い勝手など総合的に考えると、現状が最良」と説明する。
芸術館を管理する市文化芸術振興財団の横山暁事務局長(54)は「見える見えないだけでなく、ホール全体の雰囲気や生演奏の臨場感を感じてほしい」。公演内容により、見切れ席だけ安く売ることも検討している。
波紋を呼んだ「見切れ席」。実はクラシック音楽の本場・欧州では珍しいことではない。