「3分の2」をめぐる攻防
第24回参議院選挙が22日公示され、7月10日の投開票日へ18日間の選挙戦が始まった。安倍晋三首相が掲げる経済政策「アベノミクス」や安全保障関連法など、政権が約3年半の間に進めてきた政策の是非が争点となる。憲法改正の国会発議に必要な3分の2の議席をめぐる攻防も焦点だ。また、選挙権年齢が18歳以上になって初の国政選となり、若者の投票行動も注目される。
特集:2016参院選
各党党首は全国で第一声をあげた。
安倍首相(自民党総裁)は22日朝、地震で被災した熊本市の熊本城内で「選挙戦の最大のテーマは経済政策だ」と強調。「3年間で雇用を110万人増やし、有効求人倍率は24年ぶりの高い水準だ。この政策をやめてしまえば、3年半前、4年前の暗く停滞した時代に逆戻りしてしまう」とアピールした。選挙戦ではアベノミクスの成果を前面に掲げる方針だ。
公明党の山口那津男代表もさいたま市での演説で、「経済再生、デフレ脱却へ確実に結果を出してきた。雇用も改善し、ベースアップも3年連続だ。安定の自公が大事で、混乱の民共には任せられない」と語り、連立政権の実績を訴えた。
これに対し、民進党の岡田克也代表は甲府市で、アベノミクスについて「すでに限界で問題が生じている。結婚すらあきらめざるを得ない若者たちがたくさんいる。子どもの6人に1人、単身の高齢女性の2人に1人が貧困だ。こんな国でいいのか。分配と成長を両立させる政策こそ本当の経済政策だ」と批判した。
これまで首相は参院選での獲得目標議席について「連立与党で改選議席の過半数の獲得だ」と語っており、自民、公明両党で改選121議席の過半数である61議席の獲得を目指す考えを示している。
一方、参院選の焦点の一つが「憲法」だ。首相は憲法改正が持論だが、第一声で憲法改正には触れなかった。しかし、衆院では自公両党で3分の2の議席を確保しており、野党側は参院選の結果次第で、憲法改正に向けた環境が整うと警戒する。
野党側は民進、共産、社民、生活の党と山本太郎となかまたちの4党が1人区全32選挙区で候補者を一本化。参院での「3分の2阻止」を訴えている。
首相はこの日の演説でも、「民進党は共産党とともに選挙を戦っている。こんな無責任な人たちに、子供たちの未来を託すことはできない」と基本政策の違う野党の共闘を牽制(けんせい)した。
共産党の志位和夫委員長は東京・JR新宿駅前で「野党は安保法制の廃止、立憲主義を取り戻すとの大義のもと共闘している。立憲主義を取り戻すのは、政策の違いを横に置いてでも最優先すべき課題だ」とし、野党共闘の正当性を訴えた。
おおさか維新の会の松井一郎代表は大阪・難波で「大阪でやっている『せこせこ』(改革)を全国でやれば、消費増税をする必要はない」と語った。社民、生活、日本のこころを大切にする党、新党改革の各党党首も東京都内で支持を訴えた。生活の小沢一郎代表は22日午後、岩手県二戸市で第一声をあげる。
■改憲4党、3分の2焦点
国会が憲法改正を発議するには、参院定数の3分の2にあたる162議席以上が必要だ。
与党の自民、公明のほか、おおさか維新、こころが改憲に前向きな姿勢を見せる。参院は3年に1度、定数242の半数の121議席を改選する。非改選の121議席のうち、自民(65)、公明(11)に加え、おおさか維新(5)、こころ(3)の4党が84議席を占めており、今回の参院選で4党で78議席を獲得すれば、憲法改正の国会発議に向けた条件が整う。
朝日新聞の取材では、非改選の無所属議員の中に、憲法改正に前向きな参院議員は少なくとも4人いるほか、改憲への考えを明らかにしていない議員がいる。仮に4党で78議席に達しない場合でも、こうした議員の動向次第で3分の2を超え、最終的に改憲の発議に進む可能性がある。
民進、共産、社民、生活の野党4党の非改選は27議席。改選議席のうち54議席を獲得すれば計81議席となり、改憲発議を阻止する「3分の1超」となる。