原爆が投下される前の広島の鳥瞰図。左下には厳島神社の鳥居も描かれている
「大正の広重」と呼ばれた鳥瞰(ちょうかん)図絵師の吉田初三郎(1884~1955)が被爆前後の広島を描いた作品を載せた英文グラフ誌「HIROSHIMA」がこのほど、広島市立中央図書館(中区)に寄贈された。11月末まで企画展で展示している。
特集:核といのちを考える
吉田は、空を飛ぶ鳥の視点で全国の景観や観光地を描いた作品で知られる。グラフ誌は、発行当時の出版社役員の遺族が今夏、図書館に寄贈した。図書館によると、現存が確認されているのはごくわずかという。石田浩子学芸員は「保存状況がよく色彩が鮮やか。貴重な1冊」と話す。
吉田の作品は表紙を含め9点。広島が中央に位置する日本列島や原爆投下前の街、ピンク色の雲が立ち上った爆発の瞬間、煙が上がる廃虚の街などを描いている。原爆投下前後の広島県産業奨励館(後の原爆ドーム)や投下前の広島城なども柔らかな色合いで表現されている。吉田は自身の画法について「手で描くのではなくて足で描き頭で描く絵」と書き残していた。
図書館やグラフ誌などによると、吉田は広島の出版社の依頼を受け、1946年に広島に滞在。数百人の被爆者の証言や報告をもとに仕上げたという。被爆者の体験記や当時の広島市長のメッセージなども英語で記載。発行は米軍占領下の1949年とされ、孤児への物資提供や図書館建設など米国の貢献についても紹介されている。(岡本玄)