福島第一原発とJヴィレッジを結ぶ送迎バスの車内で眠る作業員たち=11月、福島県の富岡町から大熊町間、小玉重隆撮影
1日6千人の作業員を運ぶ送迎バスがある。目的地は、廃炉作業が続く原発だ。
バスは、国道6号を南に向かって走る。車窓から日差しがまぶしい。遠くに、青い海がきれいだ。
まもなく、車内のカーテンが一斉に引かれた。目を閉じてイヤホンで音楽を聴き始める人。スマートフォンでゲームをする人。どこからか寝息が漏れてきた。
東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第一原発。10月中旬、そこから、廃炉作業の拠点である福島県楢葉町のサッカー施設「Jヴィレッジ」へと向かう午後2時30分発の便は、しわのよった作業着姿の乗客で約50席がほぼ埋まり、補助席まで使われているのに、とても静かだった。
「起きている人の方が少ない。作業で疲れているだろうから、ラジオもかけない」。バスを運転する木村信行さん(52)は、原発の送迎便を担当するようになって1年半になる。
夕方になると、乗り込む人の数が一段落した。そこへ、汚染水を入れるタンクの設置などにかかわる鍛冶(かじ)職人の一団が乗ってきた。座席に余裕はあるが、若手が前列、年長者が後列にまとまっている。
集団を束ねる福島県いわき市の男性(49)は、新潟県の柏崎刈羽原発も含めて、20年近く原発作業に関わってきた。震災時は第一原発にいたという。廃炉作業の見通しを聞くと、「溶け落ちた燃料のある辺りは、線量が高くて人が近寄れない。近づけたとしても、何かあったときに逃げ道もなく、厳しい」。