観光パンフレットや案内板などに示された福岡・柳川の「川下り」の英語表記
九州を代表する観光地の多くで施設や名所の英語表記が統一されず、パンフレットや案内板によってバラバラになっている。不適切で分かりにくい英訳もあり、一つの名所に7通りもの表記が確認された例も。外国人観光客が混乱しないように、観光庁は2020年の東京五輪・パラリンピックを見据えて統一を促すが、自治体の腰は重い。
手こぎのどんこ舟でゆっくりと掘割をめぐる「川下り」で有名な福岡県柳川市。5月16日、観光客でにぎわうどんこ舟乗り場で、台湾から訪れた鐘孟芳さん(33)が市の観光マップの英訳「River Cruise(リバークルーズ)」を見て首をかしげた。「これでは大きな川とちゃんとした船のイメージで、(実物と)違う」
川下りは訪日客にも人気があり、09年に約1万人だった柳川市への外国人観光客は15年に約15万人まで増えた。ところが、市内にある英語併記の観光案内板では「Canal Boat Sailing(キャナルボートセイリング)」と「Down the River(ダウンザリバー)」が混在。別の案内板では「Boat Touring(ボートツーリング)」になっていた。鐘さんは、「実物を見れば意味がわかるが、もっと特定するような表現で統一した方がいい」。
日本各地でツアーガイドをしている韓国人の趙勝羨さん(29)も「豪華なイメージがある『リバー・クルーズ』では、田舎の風景とずれる」。どんこ舟に乗った台湾出身の徐文忠さん(50)は「川を下るわけではないので『ダウン・ザ・リバー』も違う。翻訳がたくさんあると、混乱するのでは」と話した。
総務省九州管区行政評価局が3月に発表した主要観光地の英語表記の実態調査によると、柳川の川下りには英訳が7通りある。複数の英語表記があった九州北部の78観光地の中でも多く、外国人の7割が同じ場所だと理解できなかった。記者が市内で調べたところ、7通り以外の英訳も見つかった。
市観光課によると、多くの英訳ができた詳しい経緯は不明だが、川下りのイメージを表現するため、その都度翻訳して増えたのではないか、と推測する。そもそも日本語でも統一されていない。市観光協会は10年ほど前から「川下り」ではなく「お堀めぐり」と呼んでいる。渡辺力会長は「『川下り』には急流下りのイメージがあるが、実際はお堀をゆっくりと進む。花嫁を乗せる舟などは、下るとイメージが悪いため、上ることもある」。
九州管区行政評価局の調査では、ほかの観光地でも多くの英語表記がみつかった。複数の機能があり、日本語表記も一つに定まらないような場合は、英訳が増える上に、外国人が同一の場所だと理解しにくい傾向が目立った。
例えば、旧公会堂の跡地に貴賓…