2014年にブラジルで開催された大会では、過去最高の4位に入った=知的障がい者サッカー連盟提供
「もう一つのW杯」と呼ばれる知的障害者サッカーの世界選手権アジア予選が11月にタイで開かれることになり、前回の世界選手権4位の日本代表の出場が、資金不足で危ぶまれている。チームの遠征にかかる費用は約1千万円。知的障がい者サッカー連盟は、クラウドファンディングでそのうちの250万円を募っているが、20日現在約160万円。30日までに250万円に届かないと寄付が成立しないため、連盟は協力を呼びかけている。
知的障がい者サッカー連盟によると、アジア予選の開催は今年に入ってからの決定で、しかも「青天の霹靂(へきれき)」だったという。世界選手権は94年にオランダで始まって以降6大会は予選がなく、希望すれば出場できたが、出場国のレベルのばらつきや大会形式を整えるべきだ、との声もあり、18年スウェーデン大会から予選の実施が突如決まった。
史上最高の4位の成績を修めた前回の世界選手権ブラジル大会の時も、日本代表は資金難に苦しんだ。国の助成金やスポンサーの補助金を受けても、なお資金は足りず、1人あたり30万円の自己負担をして、なんとか出場にこぎつけた。連盟担当者は「アジア予選を突破しても、翌年にスウェーデンに行くお金はとても足りない」とこぼす。
2020年東京パラリンピックの追い風もあり、障害者スポーツへの支援の輪は少しずつ広がりをみせる。だが、パラリンピック種目ではない知的障害者サッカーの運営は苦しい。
昨年4月、7種目の障害者サッカー連盟が合同で「日本障がい者サッカー連盟」(JIFF)を立ち上げたが、パラリンピック種目なのは「ブラインドサッカー(ブラサカ)」だけだ。7種目で最多、約5千人の競技人口を抱える知的障害者サッカーには、なかなか光が当たらない。
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選手たちは4年に1度の世界選手権に向け、ひたむきにトレーニングを積んでいる。
6月18日、日本代表のGK・内堀嗣円(23)は、横浜市都筑区の体育館で連盟の斎藤紘一さん(39)とともにセービング練習を続けていた。「今度こそ、ワールドカップ(世界選手権)に出るのが目標。そのために、毎日練習している」と言った。
4年前のブラジル大会は内堀にとって苦しい時間だった。中学時代にハンドボール部で培った強肩をいかし、サッカーのGKに転向したのは高校1年のとき。それから約3年で世界選手権の日本代表に選ばれた。
だが、代表では環境の違いに戸惑った。
軽度の知的障害を持ち、「まじめすぎるくらいまじめ」(斎藤さん)という内堀は、コーチの言葉を理解するのが苦手だ。大会前の練習ではDFとの連携ミスを指摘され、父の隆政さん(62)は「本人にとってはすごいストレスだったと思う」。
結局、1試合にも出られず、大会後の感想文には「(これまで遊びでやってきた)ゴルフがしたいです」と書いた。
勤務するドラッグストアでの品だしの仕事にも身が入らず、2カ月ぐらいは「ふぬけた状態」に。そんな内堀に隆政さんはGKの指導ビデオを渡し、自宅で午前3時まで語り合った。「おまえは何がしたいんだ」。隆政さんが尋ねると、内堀は「サッカーをやらせてほしい」。悩んだ末の心の声だった。以来、週5日、ジムで筋力トレーニングを続け、「今度こそ自分がゴールを守りたい」と、目の色を変えている。
連盟の斎藤さんは、「世界の頂点を目指すために、なんとか彼らに挑戦する機会を与えてあげたい」。
プロジェクトの問い合わせは連盟事務局(info@jffid.com)まで。