松井裕樹選手=福留庸友撮影
第99回全国高校野球選手権神奈川大会が8日、開幕する。今はともに東北楽天ゴールデンイーグルスで活躍する桐蔭学園出身の茂木栄五郎選手(23)と、桐光学園出身の松井裕樹選手(21)は、甲子園を目指して6年前の神奈川大会で対戦した間柄だ。あの夏の勝負を振り返ってもらった。
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球場は熱気に包まれていた。2011年7月28日、横浜スタジアム。準決勝のスコアボードには「蔭―光」。桐蔭学園と桐光学園の「桐桐対決」を、大勢の人々がスタンドから見つめた。
四回表桐蔭1死三塁。桐蔭が1点を追う場面で、4番の茂木選手(当時3年)が打席に入った。マウンドには松井選手(同1年)がいた。
この試合、桐蔭打線は苦戦を強いられていた。準決勝まで隠してきたという松井選手のスライダーが次々に決まり、「まっすぐで押してくるイメージがあったけど、スライダーがキレッキレ。これはやばいな、1年生にやられるのかと思った」(茂木選手)。
打席に立った相手の気迫を、松井選手はいまも覚えている。「茂木さんは、あの時ほえていた。ウオラァ!みたいな」
茂木選手はこの大会屈指の強打者だった。桐蔭の土屋恵三郎監督(当時)によれば、「寮の前で素振りをした後、バットをきれいに拭いて抱えて寝る。とにかく野球が好きな『野球小僧』のような選手だった」。その打撃に信頼を寄せ、送りバントのサインを出すことはなかったという。
松井選手は「桐蔭は打撃がよく、茂木さんはその中でも4番でホームランも打っていた。警戒していました」。
1球目は外角低め。茂木選手は「もうランナーをかえすことしか考えていなかった。三振だけはしちゃいけない」。だが、球には切れがあった。「スライダーもすごいし、まっすぐも強い。本当にバットに当てるのがやっと」。一球一球に食らいつき、ファウルで粘り続けた。
そして6球目。外角低めの球を身を乗り出して打った。
遊ゴロ。三塁走者がかえり同点になった。茂木選手は「ヒットで塁に出てたら、また違ったのかな。でも同点にできてよかった」。その一方で松井選手は「足が速くて、一塁がセーフになりそうだった。あれはびっくりした」。
結局、試合は5―4で桐光が勝利。決勝に進んだ桐光も横浜に敗れた。
茂木選手は高校3年間で、甲子園出場はならなかった。松井選手は翌年夏の甲子園に出場。今治西(愛媛)戦で1試合22奪三振の新記録を打ち立て、卒業後に楽天へ。茂木選手は早稲田大を経て、松井選手より2年遅れて楽天に入団した。
時は過ぎ、2人は球団を背負って立つ選手になった。
茂木選手は語る。「神奈川は本当にレベルが高い。そこで野球をやった経験は必ず生きてくる」。松井選手は球児にエールを送る。「神奈川の高校野球熱は全国一。素晴らしい選手もたくさんいる。目の肥えたファンを驚かせ、熱くさせるプレーで優勝を目指してほしい」(山下寛久)
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〈もぎ・えいごろう〉 内野手。1994年2月生まれ。右投げ左打ち。171センチ、75キロ。東京都出身。桐蔭学園から早大に進学。2015年秋のドラフト3位で楽天に入団。今季は開幕から1番打者として出場。球団生え抜きの選手で初めて2桁本塁打を達成。
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〈まつい・ゆうき〉 投手。1995年10月生まれ。左投げ左打ち。174センチ、74キロ。神奈川県出身。桐光学園から2013年秋のドラフト1位で楽天に入団。抑えに転向し、15、16年には2季連続で30セーブを記録。今春はワールド・ベースボール・クラシックに出場した。