最新式ピッチングマシンを囲む塙さん(手前左)と小島さん(手前右)と木暮さん(後列左)ら開発スタッフ=群馬県太田市
全国の高校球児に愛されてきたピッチングマシンが、レベルアップして戻ってくる。製造会社の倒産で危機にあったが、多くの野球選手に夢を届けたいと関係者が復活に奔走し、新しい会社を立ち上げた。球速、球種を自在に操り、有名選手の投球内容をそのまま再現できるという高性能マシンだ。
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ピッチングマシンの製造を手がけていたのは栃木県足利市のスナガ開発。1927(昭和2)年創業の老舗花火会社「須永花火」のグループ会社で、77年に設立された。ゴルフ練習場の打席機器とともに、ピッチングマシンにも定評があり、車輪のような二つのローターを同じ方向に回転させ、その間にボールを入れてはじき出す「第1号機」を完成させたのは、78年のことだ。
2010年に完成させた三つのローターを使う「SR―91」は、3、4種類の単純な変化球しか投げられない従来のマシンに対し、シンカーやツーシームなど15通りの球種が可能で評判になった。智弁和歌山、大阪桐蔭など甲子園の常連校が採用し高校球児の打撃の底上げに一役買ってきた。
同社はこれを進化させ、球種と速さの組み合わせで数百種類のボールを正確に投げられるという最新機種を今年初めに販売予定だった。ところが同社は経営不振などから1月に事業停止し、3月に倒産。新機種のデビューも宙に浮いてしまった。
同社でマシンの開発、営業を担当していた塙(はなわ)泰明さん(36)は、昨年12月に全国の高校やプロ野球球団などへの営業から帰社したところ、退職を告げられた。途方に暮れる塙さんに救いの手をさしのべたのが、取引先だった群馬県太田市の藤本精機と足利市のアルバ電子。「最新のマシンが日の目を見ないのは惜しい」と、両社の経営者が塙さんと組んで新会社「スポーツギア」を2月に立ち上げた。
新機種(標準仕様は145万円)の最高速度は160キロ。マシンは球速が上がると制球が乱れがちだが、最高速度でもほぼストライクゾーンに来るほど安定度が増した。多彩な変化球と細かなコントロール、緩急自在の「投球」で、400種類の球が可能になった。
従来のマシンは機械の操作盤で1球ずつ球種を選んでいたが、新機種はオプションのタブレット端末で操作できるのが特徴。ベンチから操作でき、球数や球種も事前に登録できる。プロの有名投手や高校野球で全国屈指の好投手の投球内容も再現することができる。
藤本精機の木暮治美社長(66)は「アイデアと技術力が合流し、新しいものに挑戦した結果だ」とマシンの性能に胸を張る。アルバ電子の小島康司社長(63)も「現場のユーザーがイメージするものを、うまく製品に生かすのが技術者の役目」と、タブレット式タッチパネルの完成に胸をなで下ろす。
最新式は9月から購入受付の予定だ。塙さんは「高校の練習では選手が140キロ台を何球も続けて投げられないが、このマシンならできる。強豪校でなくても打撃力が飛躍的に向上します」と話し、今日も全国の高校を駆け回る。(佐藤太郎)