大学スポーツで人気を集めるアメリカンフットボール(写真と本文は関係ありません)
今季の関西学生アメリカンフットボールリーグ3部で、9月9日土曜日の試合に「兵庫医大1―0大阪芸大」という記録がある。
大阪芸大の棄権だ。
「うちは土曜も夕方まで授業があるので」と、岡田邦彦監督は説明する。去年までは主に日曜祝日に試合があり、土曜は1、2試合で、教員も学生も「それくらいなら」と授業を欠席した。それが、今季はリーグ側が競技場確保に苦心する中、全5試合が土曜になってしまった。
5日分の授業全部を欠席はできない。交代で試合をしようにも、部員は約20人。初心者の1年生を出すと大けがにもつながる。やむなく9月の初戦と大事な実習が重なる12月の最終戦を棄権、残り3試合に万全を期すことにした。
50年の部の歴史で初の棄権だそうだ。「かつては運動部の学生は練習や試合優先が当然だったが、今は違う。引退後のセカンドキャリアを考えれば、本当の意味で社会に通用する人間を育てないといけない」と、岡田監督は決断の理由を話した。
競技と学業をどう両立させるか。これは特別な大学の、小さな部に限られた問題ではない。神宮球場が空く平日の開催が伝統となっている東都大学野球をはじめ、週末は競技場の借用料が高い事情などもあり、授業がある平日に設定されるリーグ、大会は少なくない。両立させたい学生は授業を受ける権利が奪われ、スポーツだけをしていればいいという学生は学業への意識がさらに遠のくことになる。
今、大学スポーツは変革が模索されている。スポーツ庁は、競技を横断して統率する組織である全米大学体育協会(NCAA)をモデルに、2018年度中に「日本版NCAA」の創設を予定する。
(社説)大学スポーツ 改革に求められる視点
収益アップを含めた大学スポーツ振興を目指す制度設計だが、その役割としてまずは安全性の向上と、学生アスリートの学業充実への体制作りが先決と位置づけられている。13日には大学、競技団体関係者らが集まり、学業充実に向けた課題の洗い出しが行われ、競技連盟との連携のほか、中高の段階から指導者、保護者に共通理解を持ってもらう必要性などが挙がった。
学生と監督が悩んだ末の大阪芸大アメフト部の決断は、大学スポーツの在り方に一石を投じている。(編集委員・中小路徹)