試技会であん馬の演技をする亀山耕平
アスリートに心引きつけられるのは強いからだけではない。悩み苦しむ姿に自分を重ね合わせる時もある。その意味で、亀山耕平は心揺さぶる体操選手だ。
あん馬のスペシャリストとして、カナダ・モントリオールで開かれた世界選手権に3年ぶりに戻ってきた。結果は予選17位で予選敗退。何度もつまずいてきた28歳の彼はきっとまた立ち上がる。そう思わせる。
予選を振り返り、「ありがたい経験でした。自分は少しずつ進む選手。体操は難しいです」。わずかに笑うと、東京五輪をめざすと明言した。
初出場した2013年の種目別でいきなり金メダルを手にした。その快挙が自らの心と体を縛った。
「世界一になって、もうやることないじゃんと。リオ五輪も行っておいた方がいいんだろうな、という程度の気持ちだった」
五輪出場を逃した昨年、引退を考えた。所属する徳洲会の米田監督の「かめ、もったいないやろ。ショックやわ」と引き留められなかったら、モントリオールにはたどり着いていなかった。
いろいろなことを整理できたのは、昨年12月だった。今年4月に結婚した奥さんと11月から暮らし始めていた。
なんのために体操をしているのか。自分には体操でなにができるのか。
ひとつひとつをノートに書きだしていった。「幸せになりたい。周りのひとを喜ばせたい」。結果ではなく、過程に力を尽くすことに向き合えるようになった。
米田監督は「人や物事から受けた影響にまっすぐにいってしまう。それがいい方に出る時も、よくない方に出る時もある」という。
不器用で人間臭い。あん馬は体操競技のなかで最も地味といわれる。常に重力に逆らいながら、ミスで旋回が止まれば落下する。亀山が取りつかれたのは、そんな種目だ。注目を集めようとアフロヘアにして試合に出たこともあった。
「代表選手としてのプレッシャーを感じながらの試合だった。これも選手でいないと味わえない」
勝てなくても、また次への一歩を踏み出した。(潮智史)