国民投票の結果例にみる改憲の承認・不承認のきめ方
教えて!憲法 国民投票:8
特集:憲法
憲法改正を承認するか、しないかは、有権者の国民投票できめる。
きめ方について、憲法96条は「承認には……過半数の賛成を必要とする」とさだめる。ただ、何の過半数なのか分母を明記していない。国民投票法をつくるさい、この分母が論点となった。
選択肢は三つあった。①有権者②投票した人③有効な投票をした人――だ。どれを選ぶかで、承認のハードルは大きく変わる。
自民党と公明党は③案を唱えた。棄権したり、白票などの無効票を投じたりした人は「ほかの人にゆだねた」とみなす考え方だ。
当時の民主党は②案をとった。承認か否かをきめるのだから、賛成票が半数を超えるかどうかで判断すればよい。反対の人も、投票所に足を運んだが判断できないという人も、賛成していないのだから区別する必要はないと主張した。
結局、3党は無効票をへらす工夫を前提に③案で折り合った。たとえば賛成に×をつけた票を反対に分類すれば「賛成はできない」といった消極的な賛否も反映しやすいと考えた。
それでも無効票は出る。とくに一つの改正案に複数の論点がまじるなど、国民への「問い方」に問題があれば「答えようがない」と白票を投じる人が増え、それを分母に含めるかどうかで結果が変わりかねないと懸念する声はいまも残る。
③案の過半数ラインは低い。仮に有効票が有権者の40%にとどまれば、賛成が全体の20%を超えれば承認されることになる。「国民が認めた」といえるのか、疑問も出てくるだろう。
こうした事態を防ぐために、自治体の住民投票条例や海外の国民投票では、2種類の下限をもうける例がある。一定の投票率に達しないと投票を不成立とする「最低投票率」と、有権者の一定割合が賛成しないと不成立とする「最低絶対得票率」だ。
だが、国民投票法はいずれも採用していない。憲法に明記されていないのに承認のハードルを上げてよいのか、などと批判があったのだ。最低投票率に対しては、棄権して成立を阻もうという運動を招きやすい、との指摘もあった。
国民投票に異議がある有権者は無効訴訟をおこせる。無効判決が確定し、票の再集計などで解決しない場合は再投票になる。
投票が無効になる場合について、国民投票法は、選挙管理委員会などがルールを守らなかった▽組織的買収などで多くの人が自由な投票を妨げられた▽集計に誤りがあった――のいずれかで、承認・不承認が変わるおそれがあるとき、とさだめる。
憲法学では、国民主権や基本的人権の尊重、平和主義のような基本原則は改正できないというのが多数説だが、国民投票法は「変えてはならない原則を変えた」という理由で無効とすることを認めていない。(編集委員・松下秀雄)
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〈憲法改正の限界〉 憲法にさだめられた改正手続きをとっても、改正できないことがらがある、という憲法学の多数説。日本国憲法では、①国民主権②基本的人権の尊重③平和主義――という三つの基本原理は改正できないとする説が多い。改正手続きをさだめる96条をくわえる説もある。
これらを変えれば同じ憲法ではなくなるという考え方からで、日本国憲法も①を「人類普遍の原理」、②を「永久の権利」と位置づけている。③は「恒久の平和」をうたう前文と9条にさだめられているが、どこが変えられないかについては「9条1項は改正できない」「1項2項とも改正できない」などと学説が分かれている。
ほかの国の憲法には、よりはっきり限界をしるしているものもある。ドイツ基本法はナチスの経験を踏まえ、人間の尊厳をさだめる1条などの改正は許されないとする。フランスとイタリアの憲法は、共和政体は変えられないとしている。