名古屋市昭和区のウナギ専門店「炭焼 うな富士」を経営してきた水野尚樹さん(73)が4月、後進に道を譲った。行列の絶えない人気店。「ウナギに愛情を注げる人にしか店を渡さない」。職人気質の創業者は、4年かけて後継ぎを決めた。
腹開きにしたウナギを700~800度の炭火で焼くこと20分。水分がほどよく飛んで表面がパリッとしたら、たれにくぐらせて……。脂ののった肉厚の5切れを敷き詰めた「上うなぎ丼」(税込み4320円)で知られる。JRと市営地下鉄の鶴舞駅から徒歩10分ほど。ピーク時には3時間待つこともある。
名古屋生まれの水野さんは学校卒業後、製粉会社で働いた。養殖用ウナギ、ハマチの飼料を研究し、開発するのが主な仕事だった。その合間に養鰻(ようまん)場に足を運び、休日はウナギを食べ歩いた。店で分けてもらったたれの糖度と塩分濃度を調べ、名古屋で好まれるたれを30歳代で開発。地元の集まりがあると、ウナギをさばいて串に刺し、かば焼きにして振る舞った。
腕に自信がついて脱サラし、店を開いたのは1995年、50歳の時だった。夫婦で店を切り盛りしてきたが、妻の春江さん(69)が5年ほど前にひざを痛め、引退を考えた。3人の子どもは独立しており、「後継候補」にならなかった。
その頃、名古屋市の外食産業「かぶらやグループ」の岡田憲征社長(53)から「ウナギを教えてほしい」と申し入れがあった。飲食店を幅広く展開する岡田さんは長年、「ウナギも手がけたい」と考えていた。だが、水野さんは「ずぶの素人を育てるつもりはない」と一蹴した。ウナギの命を頂いて成り立つ仕事。お客様に出すまでの全工程を知らなければ、おいしく焼き上げることはできないという信念があった。
諦めきれない岡田さん。4年前から順次、養鰻業の現場に社員を送り込んだ。水野さんも「熱意が伝わった」として養殖を学んだ社員を店で教えることにした。「弟子」は計7人で、今はそのうち2人が修業している。
「うな富士の看板を未来永劫(…