アメリカンフットボールの日本大と関西学院大の定期戦(6日、東京)で日大の守備選手が関学大の選手に悪質なタックルをして負傷させた問題で、日大が関学大に提出した再回答書は次の通り。
日大再回答は「多くの矛盾が存在」 関学大が会見で表明
第51回定期戦における弊部選手による反則行為に係る貴部からの申し入れ等に対する回答について
平成30年5月6日に行われました貴部との定期戦において発生した弊部選手の反則行為について、改めて、負傷されました貴部選手へ謝罪し、お見舞い申し上げます。一日も早い回復を切にお祈り申し上げます。また、ご迷惑をおかけしました貴部関係者の皆様に深くお詫(わ)び申し上げます。
貴部より平成30年5月10日付けで送付いただきました申し入れに係る、弊部確認作業等のためご猶予いただきました項目及び5月17日付け文書で御指摘のありました項目について、以下のとおり回答いたします。
なお、弊部選手につきましては、部として事実の聞き取りが出来ておらず、メディアにて報道されました記者会見の情報を参考に、記載させていただいておりますことを申し添えます。
1 貴部との定期戦前半第1攻撃シリーズ1プレー目の弊部選手反則行為に係る弊部見解について
①それまでの指導内容
弊部では、他の同僚大学アメリカンフットボール部と同様、コーチ制を採っており、監督の意向を受け、コーチが各ポジションリーダーまたは各選手に指示を出し、併せて、各ポジションリーダーは自らが担当するポジションの選手の取りまとめを行っております。
日常の練習においては、弊部コーチ及び各ポジションリーダーが、選手に反則行為があった場合、その都度当該選手に確認及び指導を行っております。また、弊部選手全員に対しても、場合によってはグラウンドで、通常はミーティング会場において、その行為がなぜ反則であるのか、共通認識を持つことを徹底しております。
②当該プレーに至った経緯
弊部選手は、日本代表に選ばれるほどの実力者であります。貴部が5月17日付けで作成されました見解にも記載がありますとおり、昨年の甲子園ボウルや今春の試合において、弊部選手はルールの範囲内でプレーをしておりました。弊部選手は、「気持ち」を前面に出すことで、さらに選手として成長できると非常に期待されておりましたが、その「気持ち」が、直前の連休期間中の練習では見られませんでしたため、気持ちを前面に出すようにとの指導を行いました。しかし、メンバーを決める段階ではそこまでのレベルにはなっていないと判断し、当初のメンバーには入れておりませんでした。しかし、試合直前、本人が試合に出たい旨申し出があり、強い「気持ち」があることを確認できたため、急遽(きゅうきょ)メンバーにすることを決めた経緯があります。
③当該プレーに関して弊部が把握する事実
当日、当該プレーに関し、貴部選手が味方にパスしましたが、その約2秒後、当該弊部選手が貴部選手の背後へ突進し、貴部選手の腰から大腿(だいたい)付近へタックルを行いました。貴部選手は無防備な状態でタックルされ、体がくの字になるほどの状態になり、その後、地面に叩(たた)きつけられました。
弊部選手はパスを阻止する役割を担っており、貴部OL選手のブロックをかわした後、一目散に下半身のみに目掛け、貴部選手へ突進したものです。通常では見られない長い距離を走り、貴部選手の下半身に向け、タックルを行いました。
④当該プレー後の指導者の対応
(ルールを逸脱した行為に対する監督・コーチの認識)
1回目の反則行為直後については、監督はボールの動きに着目していたため、反対方向で行われた反則については現認しておりませんでした。このため、当該選手への対応について、交代の指示や厳しい注意・指導を怠りました。この点に関しては、ルールに基づいた厳しさを求めると記載しながら、指導者として深く反省しております。井上コーチは現認しておりましたが、同コーチは、弊部選手に自信を持たせたいと考え、もう少しプレーさせようとしておりました。なお、2回目の反則行為後、コーチから当該選手に対し、ボール保持者に向かってプレーするよう注意指導・指示を出しております。
3回目の反則行為により資格没収となった際の対応については、厳しく注意・指導すべきでした。この点につきましても、指導者として深く反省しております。
当該プレーの深刻さについては、ビデオによって改めて認識した次第です。
試合直後の弊部監督による発言は、5月15日付けでご提出いたしました回答書記載のとおり、規則に違反してもよいと意図するものではなく、改めて、撤回させていただきます。
⑤試合後の対応
毎試合後、4年生、出場メンバー及びコーチで試合の反省会を行っております。当該プレーが起こった当日も試合終了後に反省会を行いましたが、特定の反則行為ではなく、全般について確認を行ったため、その時点で実際は謝罪の動きはありませんでした。
当該試合の翌日には、ディフェンスを担当する選手において、ビデオを用いての反省会を行い、反則行為について確認を行いましたが、この時も負傷された選手への謝罪の動きはありませんでした。
貴部選手は全治3週間の負傷をされましたが、同選手が後半も出場されていたことで当方の認識が甘くなってしまったところは実際ございます。非常に危険で悪質な行為であったことは間違いなく、その行為を真摯(しんし)に受け止め、プレー直後や試合後に反省し、貴部へ速やかに謝罪にお伺いするべきでした。
その後、弊部コーチと反則行為を行った選手が貴部へ謝罪にお伺いしましたが、貴部の、正式な回答があってからとのご回答でその場では受けられなかったご対応はもっともでございます。
その後は、文書のやりとりをさせていただき、弊部としましては、5月10日付けのお申し入れに対する回答を提出しましたが、ご猶予をいただきました項目について、当文書をもって回答させていただいているところです。
⑥監督の発言について
「監督に『責任はおれが取る』と言われていた」(MBS)、「関係者は反則が内田正人監督の指示だったとも明かした」(日刊スポーツ)、「『試合に出場したかったら、1プレー目で相手のQBを壊してこい』と指示した」(ハドルマガジン)等の報道については、「つぶせ」は、アメフトでは日常的、慣例的に過去からずっと使い続けてきた表現であり、反則を容認するものではなく、実際に犯罪としての傷害を指示する意図の発言ではありません。
それぞれの発言の真意は、あくまで、思い切ったプレーをした結果の反則は監督が責任を取るということであり、相手選手への傷害を指示したものではありません。
現在の確認作業では、当該選手に反則行為をうながすような指示や言動は確認できず、また、聴取したアメフト部の他の部員からは、監督が直接部員に指導することはほとんどなく、指示を出すときコーチ又(また)は4年生の幹部に指示して部員に伝えるという方法で行われたということになります。
今回確認した範囲内では、当該選手が、監督からプレー上の指示を直接受けたことがないということです。直接反則行為を促す発言をしたという事実は確認されておりません。もっとも、日大アメフト部内における監督とコーチ間で、いつ、どのように意思疎通や意思決定が行われているか等について、井上コーチの弊部選手に対する言動が、井上コーチの独断によるものか、監督の指示や合意に基づくものかは、判断がつきかねるところです。
⑦井上コーチの発言とその意図について
井上コーチが弊部選手に「QBを潰せ」という趣旨の発言をしたことは、井上コーチ自身が認めており、他の部員からの証言もあり、確認されております。
一方、井上コーチが「関学のQBを壊せば、秋の試合に出られなかったら、こっちの得だろう」と発言した点については、井上コーチは否定しており、確認作業の中においては、他の部員の中でもそのような発言を聞いた者がおらず、確認は得られませんでした。
井上コーチは、弊部選手を来年4年生のリーダーとして育てるため、同人のおとなしく、自分の感情や意見を表に出さない性格を改めさせ、向上心や闘争心を持たせたいと思い上記発言をしたと述べています。また、弊部では「潰せ」と言う言葉はよく使われており、強いタックルをする等の意味であって、相手選手に怪我(けが)をさせろという意味ではなく、本件においてもそのような趣旨から発したものではないと述べています。他の部員達も、「潰せ」という言葉については、よく使う言葉であり、相手選手に怪我をさせるという意味ではないと述べています。
井上コーチが上記発言をした趣旨、意図について、井上コーチは、弊部選手が日大豊山高校時代からアメフト部の監督を務め、以後日大入学後も合わせ5年の付き合いで信頼関係があり、同人が来年4年生になる折にアメフト部のリーダーの一人として育てようと、厳しく練習中指導をしていた旨述べていること、井上コーチが弊部選手の一連の反則行為をみて、弊部選手に対し、その後のプレーに先立ち「キャリア(ボールを持っている選手)を狙え」と注意した事実は確認できました。なお、他に井上コーチから同様の指示を受けて反則行為をした部員の存在は確認できませんでした。現状の確認作業においては、井上コーチの指示が、弊部選手をして、相手選手に怪我を負わせることを指示したり、意図したものとまで結論づけることはできないと考えています。
また、井上コーチは弊部選手に対し、単に「潰せ」と述べるにとどまらず、「アライン(セットする位置)は、どこでもいい」「1プレー目で相手のQBを潰してこい」と具体的な指示を出し、「QBを壊す」ことを試合に出るための条件として挙げるなどしており、これが一般的な声掛けの範囲に留まるものかについて、同僚の選手の証言では、当該選手が井上コーチから本気でQBを潰すような行為を指示されていると思い込んでいたことが窺(うかが)える発言もあり、今回の確認のみで井上コーチの真意を判断することは困難と考えています。
⑧今回の問題の原因について
(1)まず、背景として、一昨年4位のチームが昨年度学生日本一となるために、かなり厳しい練習を続けてまいりました。今でも、他チームと同様の練習量・質では、関東でも優勝できる程のチームではないと考えています。それを、優勝へと引き上げるための厳しい練習が重なり、チーム内に無理が広がり、いわばチームに金属疲労を起こしている状態であったということが背景にあります。
(2)その上で、監督、コーチ及び各ポジションリーダーと、現場の選手との間の意識の差が、今回の問題の本質と認識しております。つまり、監督、コーチ及び各ポジションリーダーは、選手が思い切ってプレーすることで、結果として反則を取られても、それを反省することで次に繫(つな)がる、成長できる、との意識で選手を指導しておりました。特に本番である秋季リーグ戦に向け、この時期(春季)の試合はその意識が強くあります。繰り返しになりますが、指導にあたり、「強い掛け声」での「つぶせー」や「壊せー」は日常のことであります。しかし当然ながら、反則を容認するものではなく、実際に犯罪としての傷害を指示する意図の発言ではありません。
一方、受け取る側の選手について、通常であれば、一年生からの練習試合を通じて、そのような場合、どの程度のタックル、サックを求められているのかは、ゲームの中で理解し合えることであったと思われます。しかしながら、今回は、本当に壊す(怪我をさせる)と受け取り、今回の試合出場の条件として示された「相手を潰せ」を当該選手は「怪我をさせろ」と受け取ってしまったようです。
今回、試合の直前での先発メンバーに加えるにあたり、「1プレー目で相手のQBを潰してこい」との発言も、同様に「QBをサックしろ」との意味でいたしましたが、当該選手は言葉どおり「QBを潰す=怪我をさせる」と解してしまったようです。当初、先発メンバーから外れており、本人の直訴に対して出場するための条件として言われたことにより通常であれば考えられないような反則行為をやらざるを得ないと思わせてしまうような状況に追い込んでしまったことは、日々の練習における監督コーチと選手のコミュニケーション不足、信頼関係不足から起きたと思われ、深く反省しております。
なぜ、今回に限って今まで重大な反則行為を行ったことがなかった当該選手がそのような行為に及んだかという点については、以下が貴部の疑問に対する弊部のお答えになると思われます。
監督、コーチは「つぶせ」「壊してこい」を日常的、慣例的な指示として捉え、選手はなんとしても無理にでも「つぶす」「壊す」ためにタックルに行かなければならないと、いわば強迫的な感覚を持って向かっていったという、いわば決定的な認識の齟齬(そご)がなぜ起こったのかという点です。
これは、弊部選手が、通常の練習、連休中の集中練習、メンバー決定等の過程を経て精神的にかなり追い詰められていたという点が指摘できると思われます。その上での指示の捉え方に大きな影響を与えたと考えられます。弊部選手は、上記井上コーチの言動を相手選手の身体に損傷を与えるような反則行動を求めていると解釈して、反則行為を行いました。
その原因については、日頃から相当厳しい練習が重なっていたうえ、5月の連休に入ってからは実戦形式の試合に出してもらえず、積極性がないことを井上コーチから叱責(しっせき)され、一人だけグラウンドの走り込みを命じられるなど、急に弊部選手に対する指導や練習が強化され、精神的に相当追い詰められていた状況下、関学との試合に出るための条件として「QBを壊す」ことをコーチに挙げられるなどしたことから、文字通り「相手を潰す」ことを求められ、そのような反則行為をやらなければ試合に出してもらえないと思い詰めていったものと推察されます。
弊部選手が井上コーチから厳しい指導を受けていることについては、同部の4年生幹部が、井上コーチの弊部選手に対する期待が大きく、さらにリーダーとして飛躍させるために、本人のおとなしい性格を改めさせ、闘志を表に出させるためにあえて本人を追い込んでいたと観(み)ている者もいます。
もっとも、現在のところ、部として選手本人から直接事実の聞き取りが出来ておりませんことから、弊部選手の真意を正確に把握することはできておりませんが、なぜ、このようなことが起こってしまったかの原因についてですが、弊部といたしましては、弊部選手を追い込んだ精神状態にし、それによって弊部選手が思い込んでしまったことが、反則行為の原因であると考えております。
⑨第三者委員会設置について
現在の確認作業では、具体的な指示の内容やその真意、弊部選手が反則行為を行って相手選手を負傷させた原因や理由について、弊部選手を追い込んだ精神状態にし、それによって弊部選手が思い込んでしまったことが、反則行為の原因と考えておりますが、確定的な結論を出すに至っておりません。大学間のアメフト部の試合中に反則行為により相手選手が負傷するという重大な結果を招いた事案であるため、第三者委員会を設置し、調査をしていただき、原因究明、再発防止に繫げていく所存です。
⑩弊部選手について
今回の反則行為の原因は上記にてご説明しましたとおり、現状では、指導と指導を受ける側の認識の乖離と考えております。弊部選手もいわば追い込まれて今回の行動へ繫がったものです。このような状態に追い込んでしまった責任は指導者にあり、本人には責任はありません。フィールド上の責任はすべて監督にあります。
弊部選手がこれ以上不利益を被らないよう、貴部及び世間の皆様には、ご配慮いただきたく、伏してよろしくお願い申し上げます。
2 今回の反則行為を二度と起こさないための弊部再発防止策等について
このたび、お騒がせしました責任を取り、弊部では以下のとおり再発防止を進めます。なお、部の存続については、大学スポーツであることから、学生としての活動の場、及び大学としての教育の機会を放棄せず、再発防止策を実行していきます。
なお、一般社団法人 関東学生アメリカンフットボール連盟における今回の行為に関する調査等については真摯に協力し、処分の最終決定に従ってまいります。
①指導者の意識改善
今回のような指導者と選手の意識の乖離を防ぐため、指導者は選手一人一人と向き合い、話し合いながら確認していきます。
具体的には、技術だけではない意識の部分や指導時の言葉・表現を含め、今回の反省を踏まえながら選手一人一人と接していき、ルールに基づいた指導を行うよう意識改革を行います。
②過去の試合映像等を利用したプレー検証の徹底
現在もプレーの検証は行っておりますが、今後も部員全員による過去の試合映像を利用したプレーの検証を行います。特にパーソナルファール、酷(ひど)いパーソナルファールについては、重点的に指導を行っていきます。
最終的な再発防止策は、弊部アメリカンフットボール部ホームページにおいて、公表いたします。
繰り返しになりますが、このたびの反則行為により負傷されました貴部選手並びに保護者の方に対し、心より謝罪し、お見舞い申し上げます。また、ご迷惑をおけかしました貴部関係者の皆様に深くお詫(わ)び申し上げます。
皆様との信頼関係を再度構築できますよう、再発防止に取り組みますことをここにお誓い申し上げます。
このたび、内田正人は、5月19日の謝罪でお伺いした際に申し上げましたとおり、負傷されました貴部選手、貴部関係者及び関東学生アメリカンフットボール連盟、弊部関係者ほか、ご迷惑をおかけしました全ての責任をとり、また、今回の反則行為が発生するに至ったチーム運営のあり方、指導のあり方の責任を取り、監督職を辞任することをご報告させていただきます。
また、井上奨コーチについても、5月23日の会見で申し上げましたとおり、コーチ職を辞任することをご報告させていただきます。
以上