(10日、高校野球 木更津総合10―1敦賀気比)
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この夏を前に一度は脱いだユニホームだった。
10日の第1試合、六回に敦賀気比(福井)の控え投手、坂井翔君(3年)がマウンドに上がった。木更津総合(東千葉)に先発投手が打ち込まれ、0―6。なおも走者を背負う場面で、登板機会が訪れた。
坂井君は昨秋、控え投手としてベンチ入りした。だが今年3月、春の最初の練習試合で制球を乱した。4点リードの九回に登板し、同点とされた。「やらかした。最悪や」。春の県大会はメンバーから外れ、練習はノックの補助などサポート役に回るようになった。
夏の福井大会前の6月17日、地元の球場で試合があった。ベンチ入りできない3年生の「引退試合」だった。応援に来た母は「引退試合が最後の試合にならんように」と言った。「どういうものか、わかってないんやな」と思った。
同点の八回に登板し、「これが最後やし楽しもう」。そう思うと怖さが消え、腕が振れた。2回無失点に抑え、球速は138キロを記録。青空の下で「最後」のマウンドを楽しんだ。
ところが、この好投が転機に。直後にメンバーの遠征試合に呼ばれ、本格的な練習に久々に加わった。7月の福井大会直前、背番号を渡された。
福井大会では全5試合に途中登板し、計7回を1失点。球速は143キロに上がった。裏方に回った春以降も、時間を見つけては上半身や握力を鍛えていた。「結果を考えすぎて萎縮することがなくなった」と坂井君。東哲平監督(38)も「気持ちが弱く結果が出なかったが、最後にどん底からはい上がってきた」と話す。
坂井君はこの日、六回1死一塁から登板して打者5人を相手に1失点。この回で降板した。試合は1―10で敗退。坂井君は「もう1回チャンスがほしい。次は完全に抑えます」と悔しがった。そして言った。「最後まで諦めなければ甲子園に出られることを下級生に示せた。これからの人生も、諦めたらあかんと思います」(平野尚紀)