今夏の全国高校野球選手権大会への連合チームの参加は、全国で過去最多となった。福井県内でも少人数で野球を続けるチームがある。少人数ゆえの強みを生かし、技術を磨いてきた。
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坂井市の丸岡高校の選手は13人。県内最少の数で「夏」に挑む。
3月まではわずか8人だった。昨秋のチーム発足以来、練習試合はおろか、実戦形式の練習すらできない日が続いた。秋の県大会はテニス部から「助っ人」をもらって出た。
基本練習が続き、その成果を試す機会がない。部員たちのモチベーションが下がった時期もあった。マイナス面を背負って戦うには何をすべきか。ミーティングを開き、「全力疾走の徹底」という目標を定めた。部員たちの意識が一つになった。
「初心者大歓迎」。春、部活紹介で部員たちは積極的にこう呼びかけた。
チームには実際に高校で野球を始め、今活躍している選手がいる。3年生の伊藤旬哉君だ。
小中学生時代はサッカー部。だが、野球観戦は好きでテレビでよく見ていた。広島カープ時代の新井貴浩さんや高校生だった菊池雄星さんに憧れた。中学2年の頃、「高校では野球をしよう」と決めた。
入部当初は戸惑いの連続だった。球にバットが当たらない。思うところに投げられない。帰宅後、長いときで1時間、素振りを繰り返し、鏡を見ながら送球動作を確認した。
昨夏の福井大会で初めて公式戦に出た。今春の県大会では1番打者を任され、チームの初安打を放って仲間を活気づけた。古橋光輝監督は「基礎的な能力もあったが、努力家だった」と評価する。
人数が少ないということは、出場の機会が多いということだ。伊藤君は「先頭打者として自分が打って塁に出たい」と意気込む。8強入りが目標だ。
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その丸岡を、昨秋の県大会の1回戦で下した鯖江市の丹南も昨夏は選手が11人しかいなかった。やはりテニス部から「助っ人」をもらって夏の福井大会に出た。
その時は、1回戦で工大福井に大敗した。悔しさを味わった選手たちは強い体づくりが必要と実感。冬場は基礎トレーニングで体幹や足腰を鍛えた。
春の県大会は17人で臨んだ。だが、初戦の相手は甲子園出場経験もある強豪、北陸。選手数は5倍近い。「マジか」。選手たちから弱気が漏れた。
試合当日、緊張を感じ取った近藤貞範監督が言った。「中盤までひっついていけば、相手が焦り出す。後半にチャンスがある」
試合は、その言葉通りに進んだ。五回まで無失点でしのぐと、六回に登板した相手エースの立ち上がりを攻め、3長短打で3得点。リードを最後まで守った。
人数が少ないからこその武器がある。3年の主将椿原悠太君はそう考えている。「大会の緊張感は、出た人にしか味わえない。一人一人が多く試合に出られるから、いい緊張感を持ってプレーできる」
実戦を通して成長できたと話すのが、北陸打線を完封したエースで3年の河合悟志君だ。昨夏は先発した工大福井戦で、5回10失点でコールド負け。だが、春の県大会は違った。得点圏に走者を背負っても、打者の雰囲気や状況を分析し、冷静に対応できた。
「試合を重ねることで、相手を観察することができるようになりました」
高校再編に伴い、丹南は来春から新入生の募集をやめる。今年は3学年そろって挑む最後の夏になる。少数ゆえに成長できた丹南の初戦で、第101回全国高校野球選手権福井大会の幕が開く。(平野尚紀)