第91回選抜高校野球大会(日本高校野球連盟、毎日新聞社主催、朝日新聞社後援)に出場する啓新。技術的に突出した選手はいないものの、チーム力を高め、春夏通じて初の甲子園への切符をつかんだ。
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チームが自信を深めた試合がある。昨年10月22日に新潟市であった北信越大会決勝。甲子園常連校の星稜(石川)を相手に、延長十五回引き分け再試合に持ち込んだ試合だ。
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啓新は序盤から、最速150キロの球を繰り出す星稜のエースに苦しめられた。攻撃では三回以降、三者凡退が続き、守備では四回までに2点を奪われた。
星稜は、準決勝までの3試合で無失点を記録。五回終了後のグラウンド整備の際、啓新の植松照智監督は指示を出した。「相手は無失点を狙ってくる。1点でいいから返していこう」。主将の穴水芳喜君もメンバーに呼びかけた。「耐えるしかない。ワンチャンスをものにしよう」
昨秋の福井県大会3位決定戦で延長十回サヨナラ勝ちを収め、北信越大会への出場を決めた。「耐えればいつかチャンスが来る」。これまでの経験から、選手たちは感じ取っていた。
星稜エースの速球に苦しみながらも、チャンスは八回に訪れた。山沢太陽君が左中間二塁打を放って出塁。後続が相手のミスを誘い、1点を返す。
2死一、二塁の状況で打席に立った浜中陽秀君は勢いづく。「食らいついて、どんな形でも1点取る」。フルカウントからの6球目を左前に運ぶ。チームは同点に追いついた。
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その後は互いに譲らず、延長戦に突入した。延長十回裏、宮村和暉君は右翼を守っていた。本来は一塁手で、肩に自信があるわけではない。メンバーのアドバイスで浅めに守っていた。
この回、四球で出塁した相手の先頭が犠打で二進。さらに次打者の打球が右前に抜け、二塁走者が本塁を狙って走り出した。
宮村君は右前安打になった球を手にすると、本塁にめがけて送球。二塁走者を刺し、ピンチをしのいだ。「必死に投げたらアウトになっていた」。この回も何とか無失点で切り抜けた。
一方、八回からマウンドに立った浦松巧君も奮闘した。それまで短いイニングを救援することがほとんどだったが、捕手の穴水君が巧みにリード。2巡目以降の打者には配球を変え、相手のペースを乱した。
延長十五回には右手首をつるアクシデントに見舞われながらも、相手を三者凡退に仕留めた。2時間56分に及んだ激闘は、引き分けで幕を閉じた。
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翌日の再試合で敗れ、啓新は北信越大会で準優勝。「自分たちが主役だと自覚し、自分たちで考える力がついたのではないかと思います」。植松監督は選手たちの成長に目を見張り、手応えを感じている。
星稜は23日、甲子園での初戦で、優勝候補とされていた履正社(大阪)に完封勝ちした。啓新の初戦は27日。桐蔭学園(神奈川)を相手にチーム一丸となって全力でぶつかる。(平野尚紀)